蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

書物の消滅と古めかしい喫茶店の日曜日

人が家におらず、やることもなく暇だったので、そうだ、あれをやろうと思い立ち、昼頃に出かけた。

こういう日曜日には「あれ」をやると気分が良くなるんですよね。

「あれ」ってつまり、昼間からビールを飲んでぼーっとすることです。

実家にいた頃は海が近かったので、スーパーで缶ビールとポテトチップスを買いこむと、海のデッキに寝ころんで、波の音を聞きながら雲が流れていくのを眺めて時間が過ぎることを楽しんでいたものだが、東京の住宅街に引っ越した今ではそれは叶わないので、ハンバーガー屋にでも行って肉を食らいつつ生ビールでも飲もうかと画策したのであった。

善は急げ。

中華料理屋で餃子でもつまみながら瓶ビールを楽しむのも悪くないな、などとフラフラ考えながら、隣町まで長めの散歩をした。

 

私の街には本屋と呼べるものはブックオフしかなく、ブックオフには読みたい本が無い。

調べたところ隣町の商店街には本屋があるらしいので、そこに立ち寄ることにした。今後私の拠点になるかもしれないのだ。

しかし、「書房」とは名ばかりで本は売っておらず、リサイクルショップと化してろくでもない太鼓や如雨露(じょうろ)や下劣なものばかりが陳列されていた。

日照りに曝された雑誌が申し訳程度、店頭に肩を並べている。

この街の本屋はこれだけである。

街は書物を求めていないらしかった。

 

商店街を歩いていると、古めかしい喫茶があった。

昼間から酒を飲むのもいいけど、こういう喫茶で苦い汁をすすりながらサンドイッチを齧るのもオツである。

ハンバーガー屋と喫茶の間を10分くらいうろうろして、どうするか迷っているうちに警邏(けいら)が見回ってきたので、近くにあったその喫茶に逃げ込んだ。なにも悪いことをしていないのに警察がいると逃げてしまう癖がある。

 

結局、昼間から「あれ」はできなかったけど、感じの良い喫茶店を開拓できてよかった。

昔ながらのレトロな喫茶店で、全体的にくすんでいてテーブルはやたらに低く、食器はすべてが旧時代の遺物みたいだったが、それでこそ味があるというもので、店内は静かで日当たりも良く、コーヒーとサンドイッチは美味しかった。

 

帰りがけにブックオフへ立ち寄り、本を探したが、やはり読みたい本なんて置いてなかった。

そもそもこの街のブックオフは蔵書が少なくて、雑貨やおもちゃが在庫の大半を占めているようにも見える。

この街は書物を求めていないのだ。