「ファミキチ?わたし食べたことないかも。食べたことないわ、あの部活帰りの高校生が食べるようなやつでしょ。ファミキチ」
「ファミチキ、ね」
「ファミ、ファ、ファミキチ」
「ファミチキ」
「言いず、言いづらい。ファミキ……ファ、ミ、チ、キ」
「食べたことないんだ。じゃあお昼に食べようよ。余ったパンとさ。おれ、買ってくるよ」
「わーい、ファミキチ」
「ファミチキ」
「(咳払いをする)ファミキチ」
「ファミチキ」
「ファミリー・キチガイの略?」
「ファミリー・チキンの略だよ」
「ファミリー・チキンってなんだよ」
「間違えた。ファミリーマート・チキンの略だと思う」
「ファミリーマート・フライド・チキン」
「FMFC」
「ファミキチ」
「フェミキチ?」
「ファミキチ」
「ハミキチ?」
「ファミケチ」
「ファミケチ?」
「ふぁ、ふぁ、み、ち、き。ファミキチ」
「なかなか言えないね」
「チキ、ってなによ」
「チキンだよ」
「キチじゃないの?」
「キチガイじゃないもの。つーかあまりキチガイって言わせないで。気狂いのほうがまだマシだ。」
「さみきち」
「寒いに大吉と書いて、寒吉(かんきち)」
「ぶ、部長~!」
「りょ、両津~!」
「はしゅ、はしゅちゅ、……は、しゆ、つ、じよ。はしゅつじょ」
「そう」
「はしゅつじょが主人公なの?」
「おおむねその認識で合ってる」
合っていない。
彼女のお腹と私のお腹が、ぐぅ、と鳴った。日曜はいまや正午にならんとしていた。
休日が終わるのは早いものだ。なんでこんなに早いのだろう。
「ふぁみきち、買いに行ってよ」
「ファミチキね。ハミチキ」
「はみがき?」
「ファミチキ」
「ふぁみき、ふぁ、ファミキ……!!!!ふぁ!ふぇみ!ふぁふぁふぁふぁふぁ!!!!!!ファーーーーーーーー」
「ファミチキ」
「ファミチキ」
「言えたじゃん」
「言えたから、買って来てよ」
店員に「ファミチキ2個」と伝えるとき、必要以上にゆっくり口を動かした。あまりにも恐る恐る言った。うまく伝わったみたいで、店員は素早い動きで件の揚げ鶏を紙袋に入れた。
件の揚げ鶏の紙袋には名前を書く欄がある。この名前欄が何のためにあったのか、前にテレビで見たのだが忘れてしまった。どうせ大した理由ではないだろう。件の揚げ鶏が迷子になってもわかるように名前を書いておくのだきっと。
「美味しいけど、一個で充分だね」
彼女はそう言って件の揚げ鶏をたいらげた。「美味しかったよ。ファミチキ」
日曜が終わりへ向けて動き始める。