蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

業務用ジェットコースターに乗りたい

ェットコースターが好きだが、1人で乗るにはちと腰が重い。あれは一人で黙々と乗るものではなく、友だちや仲間とワイキャイ言いながら乗って楽しむものだ。

ジェットコースターはスタート前に「さあ、みんなで手拍子を!」とか「いってらっしゃーい!」とかいった、テンションを上げるためのイベントや、愉快な音楽がかかったりなど、喧しい。独りにはこういったイベントが最も堪える。

独りでそういうイベントにノってみても、スタッフや周りのお客さんに配慮してもらっているな、という負い目を感じてしまう。

みなまで言わなくてもわかるだろうが「あ、この人、独りなんだ」の情念を周囲から感じる。

「独りでも楽しめているならいいよね」

「おひとり様でも楽しめますよ!」

「独りなんだ」の本心を否定し、覆い隠すように心の表面で浮かんでいるそういった言葉が生み出す表情を、私は見逃さない。

私が存在することで、みんながジェットコースターを楽しめなくなっている。

私が存在することで、ジェットコースターの楽しい雰囲気を阻害している。

私は、あの落下のうちに、ひとり奈落まで落ちていきたい。スタート地点に戻ったとき、私だけが底のない暗闇へ堕ちていたい。

 

そうならないためにも、おひとり様専用のジェットコースターが欲しい。

友達と来ているやつは乗れない。完全に孤独なウルフだけが乗れる。

音楽もかからないし、スタッフは二日酔いの人ばかりで覇気がなく、乗り物の装飾も最小限に抑えられており、色はなんの塗装もなされていない錆びた金属色である。

定員に達すると、「動きます」とだけ伝えられて、一人でにマシンは動き出す。ぎこぎこと機械の摩擦音がする。

刻々と頂点へ上り詰めると、なんの感慨もなく重力に任せて落下する。物理の教科書をこのとき思い出すだろう。叫ぶ人もいるし、叫ばない人もいる。

いくつかの坂を登り、落下し、回転し、また落ちる。

そうして40秒ほどの楽しみは終わる。

スタート地点へ戻ってきたときに、笑う人もおらず、拍手をする人もいない。降りて荷物を受け取り、誰も喋らず(喋る相手がいない)黙々とその場を後にして、振り返りもしない。背後ではまた次の番が動き出しているが、機械の音しか聞こえない。

これが業務用のジェットコースターである。

こういうのが近所にあれば毎日乗りに行くのにな。

 

現実的に考えてこの乗り物は遊園地にあるものとして成立しない。

もうこうなったら私は、断続的に落下する雰囲気を楽しめる薬があれば、それでいいとさえ思っている。

薬をビールで飲み下し、シングルベッドに横たわる。

10分ほどすると心臓の音がバクバク聞こえ始め、鼓動に合わせて体が浮き沈みするような感覚が湧いてくる。

20分ほどすると体の重さが消える。ふいに、自分の体重を感じて、この世界の重さに目を覚す。落下する。

もう、こういうのでいい。