蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

君はサーティーワンに並んだか?

ティーワン・アイスクリームで必ず食べるのはポッピングシャワーだ。

ポッピングシャワーだけは、サーティーワンでしか食べられない。

可愛げの塊のような味に、どこか哲学的なニュアンスのある歯応え。目も眩むような色味に、まったく何も考えなくても楽しいことが伝わってくる名前。口の中で弾けるリズム。何もかもが最高のアイスクリームだ。

f:id:arimeiro:20240617213327j:image

それはそれとして、なんか最近、激安でアイスクリーム10個を買えるキャンペーンをやっていたらしい。

どのサーティーワンも見かけるたびにひどい人だかりで、みんなそんなにアイスが好きだったのかと驚いた。

ただ、普段からこれだけ激安ならみんな気軽に食べにくるのだろうかというと、そうでもない気がする。

本当に好きなのではない。

「安い」という情報が好きなのだ。

「今だけ安い」ことに踊らされているのだ。

私はサーティーワンを高くても買う。なぜなら好きだから。

安いときしか買わない人々よりも高貴である。

 

と、ひとたび思うと、冷凍庫の前に行列を成す人だかりがなんだか浅まく見えてくる。

あーあ、みっともない。

クソみたいに長時間並んでなんだ、アイスを買うってか。

めでてぇ奴らだ。

貧乏人情緒丸出しって感じだな。知らねーけど、品川区高輪とか白金台とかにあるサーティーワンには全然並んでないんだろうな。安売りしてなくても買える人たちばっかりだから。

あーあーあー、こんなに、うわー、他のお店の前にまで並んじゃって。

あなたおやめなさいよ、並ぶの。魂というものがあるのだとしたら、穢れますよ。確実に。

ええ?奥さん、どれくらい並んでるんですか?もうかれこれ50分?いやー、大変な騒ぎですな。

ここでサーティーワンの店長さんにお話を伺ってみましょう。こんにちは。どうですか景気は。

「いやー、それがとにかく売れまくるんですけどね、いつもより単価が安いでしょう。儲けがあるわけじゃなくてね、なんか安く買い叩かれてるようで気分が悪いですよ。それでいてとにかく忙しい。バイトもこの一週間で2人辞めちゃって。ほんと、本社にはなんとかしてほしいですね。せめてインセンティブ、欲しいですワ。このままじゃまアイスを掬いすぎて腱鞘炎になって、労災っすよ」

へぇー、これはこれは……。暑くなる一方で私もアイスなんか頬張れたら嬉しいんですけども、こんな状況じゃとても並ぶ気にはなれません。現場からは以上です。

 

私はそんなことを考えながら、サーティーワンの前でしばし呆然と立ち尽くし、歯をぎりぎり言わせて、その場を去った。

泣きそうになった。

 

おれだって、おれだってな、アイスをたらふく食いてぇよ。本当は。

 

でも、あそこに並んでしまうとこの痩せ細ったみっともない矜持が傷つくんだよ。

そんな状態で食べてもきっと美味しくないんだよ。

自分を傷つけるばかりか、誰かを搾取しているような気持ちにすらなるんだよ。

ぼけっと並んでる貧乏人どもと同じステージに立ちたくないんだよ。

でもアイスは食べたい。正直、めちゃくちゃ羨ましい。

貧乏人どうこう言ってるけど、私だって威張れる年収ではないどころか、大学の同期とはどんどん差をつけられている。

おれは、どうしたらいいんだ。

じゃあ定価のときに爆買いすればいいじゃないですか。実は28歳の誕生日のときにサーティーワンのバケツサイズを購入し喜んでいたこともある。そうだ、それでいいじゃないか。

でも、定価で買うとそれは今度は、ああ、なんで安いときに買わねぇんだおれは、損をしている。と思ってしまって、美味しく食べられない。

何がしたいんですか?私は。

 

おれは、面倒臭すぎる人間だ。

ゴミカスみたいな矜持を、大切な宝石のように大事にしている。

世間から浮いてる。世間を汚いもののように思っている。馬鹿だと思ってる。聞く耳を持ちたくない。

そうして、だからおれは、孤独になっている。

本当の馬鹿はどちらか、目に明らかだ。

 

サーティーワンに行列ができているというだけでこの有様。

生きるのに向いていない。

こんな気分のとき、ポッピングシャワーを食べられたらどれだけ救われるだろう。腱鞘炎になった店長にもうひと掬いしてほしい。