蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

隣の部屋から叫び声が聞こえてくる日々

 ちの家は昔からちょっとした怪異が起こる。
 うちは屋根裏部屋を含む3階建てで、私は幼いころ3階で寝ていた。親が毎晩寝かしつけてくれて、「おやすみ」と言った後、階段を下りていく。
 しばらくすると階段を昇ってくる音がして、3階に足音はやって来る。あれ、親かな、と階段の方を見つめていても、誰も現れない。しばらくすると今度は階段を降りていく音がする。
 姿のない誰かがそこにいたのだ。
 こんなことが幼いころは毎晩あった。
 でも、怖かったわけではなくて、私は自然な気持ちで「誰かが来たのだろう」と思っていただけだった。


 他にもある。私の部屋にはギターが置いてあるのだが、ある日妹は自室で私がギターを弾く音を聞き、ああ今日も下手くそなギターを弾いてるな、なんて思っていたそうで(失礼すぎるが否めない)、しばらくするとギターの音は止んだらしい。
 ここからが問題で、この時私は外出していたのだ。3人家族で母親も出かけていたので家には妹しかいなかった。つまり、ギターを弾く人間はいなかったのである。

 妹は私が外出していたことを知らなかったので、私が帰ってきてインターホンを押すと、慌てた様子で「え、さっきまで部屋でギター弾いてたじゃん」と言った。
 姿のない誰かが私のギターを弾いていたのだ。やれやれ、どおりで下手くそだったわけだ。


 他にも、私の部屋をノックするのに入ってこない誰かや、屋根裏部屋で遊んでいた誰か私の背後に忍び寄った誰かなどなど、話すべき怪異はたくさんあるのだが、それはまた別の機会にして(ネタを取っておくというのは書き手にとって大切なことなのであ~る(吉岡里帆の真似))、今日は誰かの叫び声が聞こえる怪異の話をしたいと思う。


 去年の夏ぐらいから、妹の部屋から叫び声がする。
 私の部屋は2階にあり、妹の部屋は隣にある。壁が薄いため、喋っていたりすると声の雰囲気くらいは聞き取れる。
 叫び声は、ぎゃああああああ!って感じじゃなくて、短く、きゅぁーっ!みたいな、叫ぶにしてもそこまで大声ではない感じだ。こんな感じの叫び声が、少なくとも1日に一回は聞こえてくる。

 最初のうちは「またいつもの怪異か」って放っておいたのだけど、あることに気付いてから気になって仕方がなくなった。でもどうすることもできないのでとりあえずブログに書くことにした。
 叫び声は時間を問わず、不定期な周期で聞こえるものだと思っていたのだが、ある法則があって、それはなにかというと、妹が部屋にいる時だけ叫び声が聞こえるのだ。
 このことによってある可能性が浮上する。
 叫び声の主は、妹なのではないか?


 ふつうの人は叫び声がしたらその声は家族の誰かだろうとすぐに思い至るのだろうけど、うちの場合は昔から怪異が頻繁にあったので、逆にその発想に思い至らず、「にゃーんだ、いつもの怪異なのであ~る」なあんて納得していたのだから驚きだ。
 怪異に慣れるってわけがわからないと思われるだろうけど、『ジョジョ』なら怪異が起こったらすぐに「スタンド攻撃だッ!」って思考が結びつくし、村上春樹読者なら冒頭から落ち込んでる乾いた主人公がいたら、その先を読まずとも、やれやれ、彼はパートナーを失ったんだなって思考に至る。それと同じことだ。
 思考のパターンに縛られたとき、それは自分では気付きにくいものなので、当然の出来事すら驚嘆してしまうことがある。可愛いものだ。
 なので、自然、「妹が叫んでいる」という可能性は私には驚愕ッ!意外ッ!!して狼狽した。


 妹が部屋にいないときは叫び声が聞こえない。このこともまた可能性の真実味を濃くする。日に日に可能性は「真実」になっていく。
 私はどうするべきだろう?
 妹に直截訊ねるべきだろうか?
「最近部屋で叫んでいるけどどうしたの?何か悩みでもあるの?」
 そんなこと聞けない。私が妹だったら恥ずかしいに決まっている。私が妹だったらそのまま兄を扼殺して放火をするかもしれない。そんで、燃え上がる家の前で、胸いっぱいに叫ぶ。そのくらい恥ずかしい。
 どうやって叫んでいるのだろう?枕に顔をうずめて?
 何かを見て叫んでいる?何を?
 どうして妹は叫ぶのだろう?
 わからない。妹は勉強はあまりできないけど、家の中ではまともな思考と社会性を持っている人間なのだ。私より友達も多く、英語だって喋れるし、人前で笑顔を作って喋れるし、よっぽどまともだ。
 でも、もしかしたら、どこかで捩じれていて、歪な心を持っていて、まともではないのかもしれない。
 そもそもまともってなんだろう?


 論点がずれた。
 とにかく、叫び声の主は妹で間違いないと思う。
 これを書いている最中も、叫び声が聞こえた。
 怪異より恐ろしいことは世の中よっぽどたくさんある。その多くは人間によるものだ。
 人間は怖いのであ~る!(デンデンデンシャーン♪スーモ♪スーモ♪スーモ♪スーモ♪スモスモスーモー♪)

 

twitter.com