蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

空いてます。空いてませんが。

ちのアパートは2K(キッチンと二部屋)で、キッチンと一部屋の襖の仕切りを取り外して「大きな一部屋」としリビング・ダイニングとして使っている。

もう一部屋は彼女の部屋だ。

「二人で暮らす、と言ってもわたしたちはひとりの人間じゃなくて、他人同士であるという大原則は、いくら仲が良くても永久不変の事実なのね」引っ越して部屋割を決めるとき、彼女は言った。

「わかるよ。他人同士だからこそ、二人だからこそ、僕たちなんだ」

「それでね、あなたのことが嫌いというわけではなくて、つまり他人だからこそ、夜寝るときくらいは寝室を分けたいし、プライバシーを守りたいの」

「そうだね。大切なことだ」

「申し訳ないのだけど、わたしに部屋をちょうだい。あなたはリビングにベッドを置いて寝てほしいの」あまり申しわけなくなさそうな口調で、それは既に決まったことであるかのように彼女は紛れもなく言った。「ほら、わたし、ドレッサーとかクローゼット置きたいし、服もあなたの倍以上の量があるから、置き場所がないでしょう?自分の部屋がどうしても必要なのよ」

「まぁ、そうだろうね」

私はそう聞いて、別に不機嫌にもならないし、反発する気も起きなかった。彼女が自分の部屋を欲しい。それだけのことだ。

だいたいにおいて、彼女の前で私に拒否権はない。本来であれば彼女がそう言いだす前に私から察して「君に部屋を与えよう」と言っていなければならなかったのだ。

「もちろん、君が部屋を使えばいい。おれはリビングで充分だ。でもリビングに本とかCDとか置かせてもらうからね。ギターとかレコードも。多少景観はおれの好みに寄ってしまうかもしれない」

「うん。それでいいの。わたしはわたしの部屋さえあれば」

 

そういうわけで、彼女には彼女の部屋があり、私に部屋はない。

彼女が自分の部屋に篭っていればリビングは実質私の一人部屋となるわけで、プライバシーが保たれないわけではない。

人に見せるのにやましいものなんて置いてないし、今日まで一年以上同棲を続けて来て不便に感じたことも無い。

 

でもたまに、彼女の部屋は必要なかったんじゃないかと思うのだ。

「ベッド借りるよ~」

仕事終わり、夕飯を食べた後、彼女は3時間くらい私のベッドに居座って眠る。

「映画観るよ~」

休日はテレビで映画を観たり、ゲームをしてリビングで過ごす。私のベッドの上で本を読み、YouTubeを見て、すやすや眠る。

つまり、彼女は自分の部屋を夜の睡眠と化粧以外に使わないのだ。

ずっとリビングにいる。へたしたら自分のベッドよりも私のベッドで眠る時間の方が長いかもしれない。

 

やれやれ。

 

だけどきっと、彼女が自分の部屋に篭って私と顔も合わせてくれなくなったらもう終わりなんだろうから、そうなるくらいなら部屋にひとつ空きができていていいのだった。