(前回)
Macbookを購入する意を決した私は、早速、休日に新宿へ繰り出した。
新宿にはビックカメラ、ヨドバシカメラ、ヤマダ電機といった大型家電量販店が競い合って立ち並んでいて、加えてマルイにはAppleの実店舗があるので、これらを回って価格比較しようという算段だ。
ヨドバシとヤマダは西口、ビックとAppleは東口にあるので回るのが大変だが、致し方あるまい。
結論から申し上げると、どの店も価格は全く同じだった。
家電だと店によっては価格が違うこともあるのだが、Apple製品に関してはほとんどの品が価格統一されているみたいだ。
強いて言うなら、ビックカメラは大量のポイントが付くので実質安くなる。ただあいにく在庫がなかったため断念せざるを得なかった。
入荷を待てば良いのだが、わりとこちらは切羽詰まっている。
それに、ビックカメラの隣にあるAppleの店舗には在庫があるのだから、ここでいつ入荷されるかもわからないで待ち続けるよりかは、もう買ってしまいたい気持ちが強かった。
結局、Apple店舗で買うことにした。
店内はかなり混み合っていた。
いつもは外から見ていたけど、中に入るとより人の多さに圧倒される。ザリガニの水槽でひしめき合っていたミジンコを思い出す。うようよしてやがる。私はその水槽をひっくりかえしてやったことがある。
いくつか製品を見てまわり、やはりこれだと感じたものに決めた。
ところで私は、店員さんに声をかけられない、という特性を持っている。
服屋で声をかけられることも少ないし、こうした家電屋や楽器屋などでセールスをかけられたこともない。
いったい何がそうさせるのか、あまりにもみすぼらしい身なりだから冷やかしだと思われているのだろうか。
じっさいに冷やかしのときもあるので、そういうときは声をかけられないのはいいのだけど、ちゃんと目的があって店員の話を聞きたいときなんかには不便に思う。こちらから知らない店員に声をかけるというのは勇気がいることだ。
店員たちは皆それぞれに忙しそうだ。スマホを片手に端から端へ歩く店員や、客に操作を説明する店員、支払い処理をしている店員。と思いきや雑談をしている店員もいる。
全体的にチャラいというか、私の知っている店員像とはかけ離れている。すごくラフだし、なんていうか、文化祭みたいだ。ユニフォームがTシャツだからというのが要因かもしれない。
待っていても動きがないので、こちらから雑談をしている店員に声をかけたところ、「購入希望なら、入り口付近の店員に声をかけると、なにかよいことがあるぞ」と啓示を受けた。
「暇そうなんだからお前が対応せえよ」
そうは言わず、えっへへっ、さーせん……とニヤニヤ笑って店員の言うとおりに移動した。
入り口付近では私と同じような購入希望者が右往左往していて、それぞれに店員が声をかけて購入手続きを進めている。ここでも私の能力が発動する。秘技・店員避け。そこに突っ立っているだけでは声をかけてもらえない。むしろ「邪魔だな」みたいな蔑んだ目を投げかけられる。
どうして私の人生はこうなのだろう?
絶望の面持ちで慌ただしく行き交う店員を、さながら通り魔のように後ろから声をかけて購入希望を伝えたところ、店員は「やれやれ、またかよ」って雰囲気だが、丁寧にも、20分ほどあちらで待っていてください、と教えてくれた。あちらというのは、さっきの雑談をしている店員のいるところであった。
なんだったんだこの時間は。
(つづく)