昼に、会社近くの焼き鳥屋へ行った。こういう居酒屋はお昼時になると安く定食を出しているので常々助かっている。
カウンター席で焼き鳥丼なるものを必死に食べていると、奥のテーブル席でなにやら店員と客が揉めている声が聞こえてきて、相手はどうやら外国人旅行者らしいことがわかった。
4人が4人とも日本語がわからないらしく、店員は覚束ない英語のようなもので対応している。日本に来るなら日本語くらいちょっとは勉強しとけ、という説教はさておき、話を聞いていると4人のうちの1人がヴィーガンらしいのである。
おいおい。
たぶん、ここが焼き鳥屋で肉料理を専門とすることを知らずに入ってしまったのだろう。それで「ヴィーガンの私でも食べられるものはあるか?」と訊いてて、店員も困り果てているのであった。
普通のレストランと思って入るなら、そりゃあ、サラダとかパンとか、野菜中心の日本食が食べられると思うのは当然の思考だが、残念ながらここは焼き鳥屋である。ヴィーガンの人は困惑し、仲間の3人も顔を見合わせて額に皺を寄せる。
店員が店長に「ベジタリアン(厳密にはヴィーガンとベジタリアンは異なるものだ)でも食べられるものってありますか?」と訊いてて、困惑していた。店長もなんなんだ、ってかんじで眉を顰めている。
どうするんだろう。
店長は初心者らしきその店員にゴニョゴニョとなにか伝えると、4人の元へ向かわせた。
「トマトサラダ、OK。ベジタブル、サラダ」
どうやらトマトサラダを勧めたらしい。そんなものがあったとは、知らなんだ。これにはヴィーガンも相貌を崩してトマトサラダを注文した。
他にもいくつか野菜中心の料理を注文し、やれやれ、一安心である。
「冷やしトマト一丁!」と店員が張り切って厨房に伝えた。
冷やしトマトかよ!
なんかそれって、トマトサラダでいいのか?
想像と違うんじゃないか?冷やしトマトってトマトサラダじゃなくない?
案の定、トマトサラダが来ると思っていたのに冷やしトマトが提供されたヴィーガンと3人の仲間たちは、絶句した様子だった。
なにせ、皿にトマトの刺身とマヨネーズである。ヴィーガンがマヨネーズを食べていいのかも微妙なところだ。
なにか抗議しているみたいだったが、店員は「トマトサラダ。OK」の一点張りで有無を言わせなかった。
強い。
一度こちらのペースになってしまえば客なんぞ屁でもないようだ。
また、追加で注文したニンニクの串焼きとシシトウの串焼きを提供したところ、シシトウがなんなのかわからないヴィーガンがwhat?みたいなことを尋ねていたが、やはり店員は「シシトウ、OK」しか言わなかった。これにはヴィーガンも「シシトウ…」とリピート・アフター・ミーするしかない。
あんまりだと思ったが、こうなるのは仕方がない。シシトウなんてどう説明すればいいんだ。
両者に同情した。
極めつけに、お吸い物を出していたのだが、これには肉は入っていないものの、鶏から出汁をとったチキンスープであり、そこのところの説明はなく、ヴィーガンも美味しそうに啜っていたのでこれはちょっとした問題ではないかと危ぶまれる。知らぬが仏である。
英語がそんなに通用しない国に行くなら、多少は現地の言葉を学んでから行くべきだ。