蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

気づき

が憂鬱体質だから歩くときも必然、下を向いて歩くことが多い。

だけど今朝さ、ちょっと上向いて歩いてみたんだ。

なんとなくね。

下向いてんな〜!って思ったからさ。

上向いて歩いたほうが気分も上がるんじゃね?と思ってほんとそれだけの理由で、上見て、前向いて、普段歩いている会社の周りの景色をちゃんと見ようと思ったんだよ。雑居ビルがたくさんあってラーメン屋さんがあってボロボロの車がずっと停められてるどこにでもある街なんだけどさ、たまにゃ上向いて歩こう、と思った。そんで気づいた。

この世界って美しい。

 

ラーメン屋のおばチャンが店のガラス戸を雑巾で拭いている。

夏の朝日が通りのまっすぐ先に建っている高層ビルのガラスに反射している。

居酒屋のシャッターの前でタンクトップの若い女の子がしゃがんで必死にケータイに文字を打ち込んでいる。

空の半分は絡み合った電線で埋まっている。

ラーメンのスープを仕込むにおいがする。

交差する通りの道に雑居ビルが顔を並べている。その先に高層ビルが乱立している。

急いでいる人がいる。急いでいない人がいる。

音楽を聴いてる人がいる。

自販機にジュースを入れているコカコーラの配達員。

高架下から見上げる高架の構造。鉄骨の太さ。がっちりした直角。ビス。街の肋骨。

うなぎの看板。

耳鼻科。

税理士。

日常、だれかのドラマ、今日しか見られないこの季節のこの時間の空の青。

 

においとか音とか、風の感触とか、そういったものを感じると、私はこの全身でもってこの世界に存在していたんだと、思った。

汚いビルも高架もラーメン屋もなにもかも、この空以外は人間が作った営み。

誰かの人生を思う。その人も全身全霊で生きているのだろう。

なんて美しいのだろう。

 

人間は孤独を内包している悲しい生き物だけど、決して一人ではないのだ。

みんなが孤独ということはそれはもう、孤独ではないのだよ。

 

生きてるうちに気づけてよかった。

お化けになってからこの世界の美しさ、生きているということの尊い価値に気づいたら、きっと怨霊になっていた。