蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

猫が来てからというもの

  猫たちが我が家にやってきて、一週間が経過した。

 だいぶ馴れてきた様子で、私が指先を小さな鼻の前に出すと、くんくんにおいを嗅ぐようになってきたし、撫でてもおっかなびっくり逃げなくなった(逃げるときは逃げるけど)。

 

 今日は猫じゃらしのおもちゃでしばらく遊ぶこともできた。

 くにゃくにゃ身をよじらせておもちゃを追い回す姿はなんとも可愛らしく、無邪気で尊いものであるよ。

 

 毛はとても柔らかくて、ふわふわしている。撫でると指が埋まる。そうして触れた肉体の細さと寂しい温もりが「こいつらを守りたい」と思わせる。

 ご飯を食べて眠くなると、小さな口をぴちゃぴちゃして、きゅるると瞼を閉じていく。こんな小さな瞼でも、甘皮ほどの瞼でも、重くなるのだろうね。

 腕を胸の下に入れて、大切なものを抱き寄せるようにして眠る。気持ちよさそうに、眠る。

 ときどき小さな耳がぴくんと動くのはなぜだろう。人間には聞き取れない妖精の囁きでも聞こえるのだろうか?

 だんだんと眠りの世界へ入っていくのだなぁ、と思う。自分はどうやって眠るのだろう?私も猫のようにだんだんと眠るのだろうか?いつも、ある瞬間を境に世界と交信が途絶えてしまうように眠るのだ。猫は世界がグラデーションして薄れていくように眠る。

 穏やかな眠りだ。きっと悪い夢なんて見ないのだろう。

 猫が悪い夢を見なくてもいいように、私が猫の分も悪夢にうなされたい。

 おれは、こいつらを守りたいと思う。

 

 

 仕事で嫌なことがあっても(ほとんどがそうだ)、でもまぁ家には猫がいるし、と怒りや落胆の心を持ち直すことができる。

 おれの人生は仕事だけじゃないんだぞ。猫もいるんだ、と妙な自信を持ち、うっすらと希望が見えてくる。見失いつつある自分を取り戻すことができる。

 これで猫がさらに懐いてくれたら、私はもう無敵になれるんじゃないか。

 うちにはとても懐いている世界一可愛い猫がいるんだぞ。

 これで強くなれないわけがない。

 「愛してる」の響きだけで強くなれるけど、懐いた猫がいるというだけでも相当強くなれるだろう。

 

 

 猫が来たことで、以前一緒に暮らしていた2頭の犬のことを忘れてしまったかというと、そんなことはなく、むしろ犬たちとの行動や性格を比べる機会が多々あるので、思い出す頻度は以前よりも増した。

 残念だけど、そうして犬たちの不在感を強く感じることになる。

 これはよくないことなんだけど、猫たちに失礼なんだけど、猫がいることで犬たちが堪らなく恋しくなる。気を緩めたら家族の前で泣きそうになる。淋しくて冬の海に吼えたくなる。

 

 私は正直であろうと思う。

 

 

 猫が来てからというもの、私は少し強くなって、淋しさを抱くようになって、優しくなれた。