蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

信憑性のある噂にこそ気を付けられたい事

「マスクに精製水とアルコール7:3で混ぜたものをスプレーしとくと、3日間洗わないで平気なんだって」

 母がそう言うのでびっくりした。

 大丈夫なわけないだろう。例えば7:3で割ったチューハイを3日間放置したやつを飲みたいと思う?思わないでしょ。そういうことだよ。

 そう言うと母はそっかぁと納得し、100均で買った空のシュッシュに透明の液体を混ぜるのをやめてくれた。だいたい、水道水は精製水じゃない。

 

 デマに踊らされる人は多い。

 情報が錯綜する現代こそ、慎重になるべきだ。

 先日もトランプが「消毒液を注射すれば予防になる」と発言したとかで、アメリカで数十人死んだらしい。けっこう大問題だ。アルコールを注射して大丈夫なのはロシア人だけだって知らなかったのだろう。(関係ないけど、コロナの次にどうにかしなきゃいけないのはトランプだ。)

 関東大震災のとき、井戸に毒を垂らしたと根も葉もない噂で在日朝鮮人を私刑にしたり、中世ヨーロッパでペストが流行したときも神の怒りにふれたせいだとユダヤ人が虐殺されたりした。

 根も葉もないうわさで人間の憎悪は簡単に行動に移される。

 そういうのを防ぐためにも、情報の一つ一つは精査しなくてはならない。ウィルスと並んで脅威なのは人間なのだ。

 

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「その怪しい情報、どこで仕入れたの?」

「三ツ谷さん(母の友だちの看護師)の通ってる整体の先生がくれたのよ。LINE送るよ」

 まもなく私のLINEに長大な論文調のメッセージが飛んできた。

「そこに全部書いてあるよ。正しいこと全部」

 母の盲信はすごい。たぶん簡単に詐欺商材に引っかかるし、ちょっと押せば宗教にも入ってくれるだろう。

 

 論文を少し読んでみた。

『2020年4月21日 AGデイリーポート引用■オーストラリア・ビクトリア州立大学感染症予防学疫病生体解剖学博士による報告によれば、』

 すごい怪しいはじまり方だ。なにかカタカナと長い漢字を並べられると有難く見えてしまう。

『ウィルスは動物ではなく物質の構成であり、細菌とはまったく異なる物体であることがわかっており(1)、』

 括弧1なんて書いてあるので注釈でもあるのかと思ったが、なかった。

 

『ウィルスの細胞壁に対しては二酸化水素を抽出した精製液と「温度」が効果的であることがわかっており、COVID-19は特に25度から32度の温度で死滅することが』

『ウィルスの発生源を調べればその土地に無い気候がウィルス予防に対して有効であることがわかるだろう。中国武漢の気候は湿潤で、』

『罹患者の使用していたマスクは多くが黒、乃至は冷色系で、COVID-19の網膜組織構造を踏まえるとその色は、』

『特に優れた効果を見せたのは準亜鉛と純銀で、銀は毒性もなく比較的安価で手に入る金属である。これを38度のぬるま湯に浸けて風呂に入ると皮膚細胞からCOVID-19に有効な抗体を摂取でき、』

 

 などなど、怪しい情報がさも有難そうに書いてある。

 母だったら信じてしまっても仕方がないかもしれない。なにせ、オーストラリア・ビクトリア州立大学感染症予防学疫病生体解剖学博士の論文なのだ。ないだろそんなの。

 とは言いつつも。

 この意味のない論文の最後はどうやって締められているのだろうか気になった。活字中毒的なところもあって結局それを最後まで読んだ。

 

『最も大切なのは、情報の信憑性を裏付けをもって確かめることである。やたらと有益そうな情報に飛びつくのではなく、情報ソースを確かめて複合的に捉えるのが肝要である。このようなどっかから出回ってきた情報源不明のテキストには特に注意すること』

 

 デマの注意喚起が目的だったみたいだ。

 なるほど、母が知り合いから読まされるわけだが、最後まで読んでないな。