蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

の毛がたとえば排水溝に絡まっていたりすると、耐え難い憎悪・嫌悪を抱く。

小学生の頃、教室を雑巾がけして水道で流すときに誰かの髪の毛が くすりゆびに絡まっていて、言いようもない不快感に雑巾を壁に投げつけたくなった。実際に投げつけたかもしれない。

 

口の中に髪の毛が生えたらどうしよう、と眠る前に考えて、悪夢にさらされることがある。

もっと酷いと、性転換手術をして人口膣をこしらえたものの術師の腕が悪くて毛根を内部に巻き込んでしまい、術後しばらくして膣から陰毛が生えてきたらどうしよう、と妄想して怖くなり、気絶するように眠ることだってある。どうして眠る前に性転換手術をして人口膣をこしらえたものの術師の腕が悪くて毛根を内部に巻き込んでしまい、術後しばらくして膣から陰毛が生えてくる妄想をしなければならないのだろう。性転換手術をする予定は一生ないのに。

 

毛はしかるべき場所に生えていればいいのだけど、落ちていたり、不条理な場所に生えていると、殊更気持ちが悪くてしかたがない。

床に一本落ちているのも嫌だし、排水溝に絡まっているのも嫌だし、キーボードの隙間から覗いているのも嫌だし、ドアノブにちぢれ毛が密生していたら発狂してその場で永久脱毛するかもしれない。

しゃもじ、改札機、アスファルト、五千円札など、本来毛の生えていないところに毛を植えたらよっぽど気持ちが悪いだろう。

 

 

よくわからないのだけど、若い女性は髪の毛が抜けやすいのだろうか?

実家でも妹の髪の毛がそこら中に落ちていて、一時期青色に染めていたときなんか、あ、ここに妹はいたんだな、ってわかってちょっと嫌だった。髪の毛が落ちていたから妹がここにいたとわかる、そんな自分も嫌だった。

同棲している恋人の髪の毛も、掃除機で吸っても吸ってもいつもそこらに落ちていて、私の髪よりずっと細いからすぐわかってしまう。

生理現象だから仕方がない。きっと代謝がいいのだろう。

 

大好きな恋人のものだとしても、落ちてる髪の毛は好きじゃない。

目に余るようだったら拾って捨てている。

だけど生えてる恋人の髪の毛は好きだ。

束になった髪の毛の一本一本は細くて薄い色をしていて、その細い束からシャンプーの匂いがして、あたたかくて、ああ、とおもう。

しかるべきところに生えそろっている髪の毛は愛しく美しい。

密集している状態が美しく、単体だと憎悪の対象になるものははたしてそう多くない。憎悪とまではいかないけど、米粒なんかが仲間かもしれないな。一粒より数千粒のほうが見栄えがいい。憎悪とは違うけど、ジグソーパズルもピースが揃っていないと美しくない。不完全であるという状態が憎悪なのかもしれない。なにかコンプレックスでもあるのだろうか?

なんにせよ、落ちてるような不完全な毛は、醜く憐れである。

 

だけどもしもいつか禿げてしまったら、落ちてる髪の毛を嬉々として集めるかもしれないな。

かつら、かつらを作ろうとして。