コンビニで温犬(ホットドッグ)を見かけ、ソーセージの太さ、大きさ、申し分なくちょうど昼食に良さそうだったので、ついでに乳仏と共に購入した。
ところで菓子パンのなかでも乳仏が最も安定して美味しいと思うのは私だけだろうか。
柔らかめのフランスパンに練乳を挟んだ乳仏であるが、まずフランスパンが柔らかい時点でフランスパン的アイデンティティが崩落しているし(ある意味失敗してる)、具の練乳は要するにめちゃくちゃ甘ければいいわけで、誰もそのミルク感や香りにこだわりなんて持っていないのだ。
乳仏は安くてもそこまで不味くなるものではなく、「柔らかいフランスパン」と「とにかく甘い練乳」という工夫しようのない要素でできているので、いくらでも妥協できるし期待のしようがないから、なにも面白みのない感情でコンビニをウロウロしているときは乳仏を買うことにしている。
「乳仏が最も安定して美味しい」というのはこのようなネガティブな理由から得られた地位なのだ。
乳仏とはミルクフランスのことである。
(でもなんだかんだ好きなんだよナ)
乳仏のことはどうでもよい。
温犬の話をしよう。
購入した温犬を袋の上から握りしめてみると、けっこうパンががっしりしている印象で、その中にも芯の存在感を感じられる程ソーセージが太くて嬉しい。
コンビニの1500Wの電子レンジで30秒温めた。
本来は25秒なのだが、設定の仕方がわからず30秒しかなかった。
これが仇となったのかわからないが、電子レンジから出てきた温犬はあの頑強なしっかりしたパンの質感を失ってすっかり意気消沈し、浜辺に打ち上げられたクジラの遺体みたいにぐったりとして形状崩壊しつつあった。
パンの支えを失ったソーセージは半分ほどパンから突き出し(パンが縮んでいた)、湯気を立たせ、なにやら興奮して自信を漲らせていたがなにを勘違いしているのだろう。出しゃばってやがる。
そして、かなり熱くなっていた。温犬というか熱犬だった。
でも食べる。これが昼食だから。
会社の共有スペースのテーブルに座り、熱犬をて袋から取り出した。そのとき手にソースがぐっちょり付着した。
ハンカチで拭いたが、また袋を掴むとソースが付着し、これはよく検分すると袋自体にソースがこびりついていたのだった。
拭いてもしかたがない。手がめちゃくちゃになる覚悟で食べることに。
めちゃくちゃ熱いし、チョリソーだから辛いし、パンはへにゃへにゃなのに噛み応えは堅くてなかなか噛み切れず、ソーセージは太く熱く無駄に肉汁をほとばしらせている。
あぐあぐ食べているうちにもソースがテーブルにこぼれ、ハンカチは汚れ、口の周りは男子小学生がミートソースを食べてるみたいに無邪気になっていく。
共有スペースでもくもくと食事をする社会人たちの中で、無言で熱犬と格闘する。
熱犬というかなぞの深海生物を喰らっているみたいだ。必死なのでぜんぜん味わいもない。
なにやってんだろ、と思う。
途端にシュールな気分が押し寄せて来て、熱犬に口内を蹂躙されながらおかしさが止まらない。ニヤニヤしてアツアツのパンを頬張っているさまは周囲からどう見えるだろう、などと考えると余計におかしい。
笑いをこらえて鼻息が荒くなり尋常ではなくなってきた。
こうなると半ば不審者である。
(でも人間ってこういうところが可愛いんだよナ)
なんとか熱犬を食べ終えてから齧った乳仏の味は平易で甘く、なんの期待も興奮ももたらさない代わりになんの困難もなく、やはり安定して美味しいのだった。