蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

美味しいフレンチトーストを焼くためのいくつかの約束事

レンチトーストを焼く際の決まりごとはいくつかあるが、多くの場合、それらのことは市井に知られていない。

コンソメスープのすすり方にマナーがあるように、家系ラーメンのニンニクを入れる量とタイミングに流儀があるように、オムレツの作り方に型があるように、フレンチトーストの作り方や食べ方、タイミングにもいくつかの約束事がある。

 

と言ってどんな決まりごとがあるのかと緊張せず、肩の力を抜いてほしい。

フレンチトーストの作り方なんて、テキトーでいいのだ。

緊張して食べる料理ではなく、晴れた日曜日の朝にリラックスした服装で、「日曜美術館」でも観ながら食べる料理だ。

リラックスをすること。

最初から言ってしまえば、それこそがフレンチトーストと向き合ううえで最も大事な約束事である。

美味しそうとおもえればそれで成功なのだ。

 

さて早速作っていくわけだが、あとは簡単なことなので、余計なことを考えながら、とりあえず牛乳と卵を混ぜておけばいい。

たとえばいつか失くしたビニール傘の行く末や、読みかけて中絶した小説がどうあればおもしろく読めたかについて考えながら、牛乳と卵を混ぜればいいだろう。すぐに混ざり終えるとおもう。

卵1個、牛乳多め。具体的にはわからない。いつも私はテキトーだからだ。

「牛乳、ちょっと多いかもな……」と若干不安になるくらいの量でいい。

牛乳が黄色くなってきたら、砂糖を大量に入れる。

大さじ2~3くらい入れればいいだろう。

ここで塩を一つまみ入れると味がしまるかもしれないが、私はやったことがないので、おすすめはしない。

卵と砂糖を溶いた牛乳をひと舐めしてみる。甘ければそれでいい。

 

この液にパンを浸すのだが、パンについては、重要なポイントが二つある。

 

 ・総菜パンではないこと

 ・分厚いこと

 

ピザパンを件の液に浸した場合、待つ未来は悲劇である。カレーパンも良くないだろう。

浸すなら、厚めに切ったフランスパンか、3枚切りの厚い食パンだ。

厚い方がいい。

厚い方が、料理が完成したときに、豊かな気持ちになれるからだ。

切れ端みたいに薄い薄いフレンチトーストを見ていると「ひもじいのに無理をしている」感じがしてきて虚しくなってくる。戦時中、みたいな気持ちになる。本当にひもじくても、厚めにした方がいい。

 

液に浸したパンを冷蔵庫に一晩寝かせよう。

1時間もすればパンが液をすべて吸収し、はちきれんばかりに膨張しているのが見られる。大丈夫だろうか?とすこし不安になるくらいの方が美味しくなる。

 

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食べるのは休日がいい。

日曜日の朝がオススメだ。

最もリラックスした状況でこそフレンチトーストは輝きを増す。

 

フライパンにバターを敷き、液ごとパンを投下する。

煙。

バターの焦げる芳ばしい香りと、砂糖の溶ける甘い香りが部屋中に満ちる。換気扇は必ず回すこと。

ああ、この香りの煙草があればいいのに。

優しい日曜日の朝の香り。ほのかにさっき淹れた紅茶のフレーバー。

焼きすぎると焦げてしまうのだが、焦げを気にしてはやくあげると生焼けになって面白くない。

両面をしっかり焼いたほうが(フランスパンの場合は側面も焼く)後悔しない。恐れずに焼こう。素人がつるんとしたフレンチトーストを作ろうとすること自体間違っているのだ。

焼きすぎたか……大丈夫か……?と少し不安になるくらい焼いたほうが良い。

フレンチトーストは緊張と緩和の交錯する料理である。

 

焼き上がったら皿に盛り、はちみつ、またはメープルシロップをかける。

付け合わせにソセージかベコーンを添えると花だ。

外はこんがり、中はふんわりのフレンチトーストの完成だ。

 

食べる際は食器を用いるといいだろう。

 

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ここまでフレンチトーストの約束事を綴ってきたが、実のところ、約束事なんてものは、無い。

冒頭にも書いた通り、リラックスした気持ちで、楽しみを膨らませつつ、作るのがいいだろう。

フレンチトーストは楽しく、心豊かでなければならない。