蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

ああ、大人になっていく

気シェーバーを買った。

使い始めて一週間ほどになるだろうか。だいぶコツも掴めて、剃刀(カミソリ)と遜色なく快適に剃れている。朝と夜、二回剃っている。

 

年々、髭の伸びるペースがはやくなっている。

十代の頃は2~3日にいっぺん剃ればよかったのが、20代になってから毎朝剃ることは義務となり、25にもなると朝剃っても夕方にはちくちくと伸びてきて、あご周りが青くなっているではないか。

そんな髭で恋人にくっつくと、嫌悪感を示される。

「本当に痛い。本当にやめてほしい」

声の調子にはふざけたところはなく、それでも私がははは、と笑って誤魔化すとかなり遺憾らしく口もきいてくれない。

「髭を剃ってからにして」厳しい。

「いっそ脱毛して」とも言われる。

 

 

髭は毎日伸びるし、テキトーに伸ばしていると不潔感もあり、特に女性からかなり評判が悪いように思う。女性のすべてがそうではないだろうけど、少なくとも私の周囲の女性で髭が好きな人はいない。

駅の広告や車内広告では強迫的にまで髭脱毛が宣伝され、なんだか髭は非文明的で野蛮な象徴であると批判されているみたいで、心よいものではない。

髭を剃るのは面倒だけど、私は男として生まれた以上、髭は男性的な象徴として誇りを持っているし、単純な話だけど、髭を剃っていると「ああ男として生きてるんだなぁ」と嬉しくなって背筋が伸びる日さえあるのだ。

だから髭脱毛はしないと思う。もしかしたら今後人生で、髭を伸ばすことがステータスになるかもしれないし。

(とか言いつつ一年後髭脱毛してたりして)

 

髭剃りは嫌いではないが、いちいち顔を洗ってシェービングクリームを塗り、剃刀でアゴをなぞるのははっきり言って面倒くさい。

電気シェーバーなら多少は手間が省けるだろうし、これから長い人生、コスト面を考えると電気シェーバーの方が経済な気もする。剃刀やシェービングクリームはそれなりの値段なのだ。

 

いろいろ迷い、結局よくわからなくなって、混乱し、結局特に説明も読まずに、いちばんシンプルで、高すぎず安すぎない標準的なものを購入した。

 

初めのうちは戸惑いもあったし、なんか剃ってる感じがしなくて「つかまされた」と思ったが、使いこなすうちに自分のアゴのラインに沿って的確に剃れるようになった。

肌荒れもしないし、充電も長時間保つので不便も感じない。気持ちよく剃ってくれるから他のところも剃ってみたくなる。あんなところやこんなところを……。

なによりも「うぃーーーーーん」って音が、なんか大人の男が髭を剃っている音で格好良い。

 

ああ、大人になっていく。

 

 

剃り終わってアゴを撫でる。

これで恋人にくっつけるぞ。

そうしてくっつくと、恋人は「やれやれ」ってかんじの ため息をついて、一応は抱きしめてくれる。

 

その ため息が毎回少しだけ私を傷つける。シェーバーより鋭利で。