蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

作り上手

女の料理スキルがどんどん上がっている。

平日は私の帰りが遅いこともあり、夕食の支度をほとんど彼女に一任しているためだろう。

以前は半分半分くらいの分担で作れていたのだが、最近私は忙しいことや出社の機会が増えたことにより、休日しか料理ができなくなってしまった。その結果、平日彼女の料理機会が増え、メキメキ腕を上げているのだ。

なんていうか、料理の勘が磨かれた感じがする。

レシピを見なくても、これまでの経験を踏まえて味付けを整えたり、これとこれを組み合わせればこんな料理ができると想像力を働かせ、その通りにこしらえるのだ。

料理も数稽古。

素直に尊敬する。

 

 

私の得意料理はペペロンチーノとトマトソースとオムレツで、彼女の得意料理は すまし汁と卵焼きと和風ポテトサラダだ。

彼女はそのことを少し気にしていて、自分の得意料理が比較的地味だという。

たしかに、私の得意料理に比べて所帯じみている感じは否めない。主婦みたいだ。

だけど彼女の卵焼きと すまし汁はお義母さん直伝でかなり美味しく、とくに すまし汁は飲むと心が落ち着いて、ニワトリのように取り乱していた気分も鎮まっていく心地がするものだ。

少なくとも得意と言える料理があるだけ立派だと思う。それはお互いに。

スパゲティなんてイタリアの焼きそばみたいなものなんだから、彼女の すまし汁と大差ない。

 

 

料理が得意なのはいいが、彼女は少し不器用なところがあって、よく怪我をする。

週に一度は足や腕を強打して痣をつくったり、指を挟んで血を出したり、シンプルに切って絆創膏を張っている。

先日もピーラーで爪を剥いてしまった。

 

私がやめろというのに彼女は怪我の報告を嬉々として入れる。

「爪の表面が剥がれちゃて、なんか中心に向かって亀裂が入っちゃってね。そこに糸とかひっかかったらべりって爪剥がれちゃいそうで怖くて、亀裂の入ったところを切ってたら肉まで達しちゃって……」

私が顔をしかめて歯をギリギリこすり合わせているのを彼女は嬉しそうに見つめて残酷な傷の状況報告をさらに入れる。

話に聞いた傷の痛みを想像してしまって、本人よりもむしろ私の方が痛がっている。

彼女はどんな怪我でもその傷の様子、深さを話し、必ず見せてくる。

内出血し青黒くなった太ももや、うっ血した腕や、切った指先や、剥けた爪を。

ギリギリギリギリしてると彼女はきゃっきゃっと喜ぶ。

頭がおかしい。

 

傷を作るのが上手くなってどうする。もう少し落ち着いてほしいものだ。

自分を料理してしまっているではないか。

得意料理になってしまう。