蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

未来の味蕾

座の彼女はもうすぐ誕生日だ。

なので、すこし高いレストランでランチした。

 

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コース料理を食べるのは久しぶりで、フレンチのコースはもしかしたら初めてかもしれない。

いや、初めてではないかもしれない。

けど、自分でお金を出して、意識的にフレンチを食べるのは間違いなく初めてだ。

なお今回は二人とも少食なので、品数少なめのコースにした。

 

前菜でやたらと名前の長い料理が来る。まさにフレンチという感じだ。フレンチでは寿限無と全く同じ理由で、名前が長い方が良いとされているのだ。この前菜も「さつまいもと生ハムの五劫の擦り切れ和え〜やぶらこうじソースを添えて〜」だったかもしれない。

この前菜、何味かと問われると非常に答えに窮する。

蜂蜜の甘さ、さつまいもの甘さ、イチジクの甘さ、とうもろこしの甘さ、チーズの酸味、生ハムの塩気、一度聞いただけでは覚えられないソースの苦味混じる旨味、複雑な味わいだ。無論、美味しい。

普段自分が料理をする際には絶対にやらない組み合わせが出てくると驚く。スーパーの惣菜にもない味に舌が混乱する。

なんでも食べるのがいい。そうして舌に味を経験させて、味の引き出しを増やしておくと食事がもっと楽しくなるし、あるいは急遽ゲテモノを食べなければならない場面で恐れずに味を楽しめるだろう。

自分の感覚を信じて味を楽しむのだ。

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肉も美味しかった。知らない名前のソース。赤ワインの味がする。

肉を美味しく焼くのは難しい。ただ焼けばいいってもんじゃない。熟成も必要だし、火加減を知らなければならない。なによりも上質の肉を仕入れなければならない。肉は肉屋。いい。

 

コース料理は一品一品がゆっくり出てくる。

一皿の量が少なく、育ち盛りの野球部だったらキレるくらいの量しか出ないからすぐに食べ終わっちゃうし、足りるのか不安だったが、提供時間を遅くされることで皿と皿の間隔が空いて食欲をコントロールされ、次第にお腹いっぱいになってくる。

コースを食べ終えるのにきっちり1時間半かかった。

デザートは欲張って食べたけど、はっきり言って満腹で、ゆっくり味わう余裕もなくすこし勿体無いことをした。どれもかなり美味しかった。甘い甘いケーキは苦い苦いコーヒーとよく合う。

かなりお腹いっぱいになった。

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コース料理はもちろん料理を楽しむこともそうだけど、食事の時間そのものを楽しむために存在しているのかもしれない。

彼女の誕生日を迎えることや、付き合いはじめた当時のこと、最近聞いた話とか、絵画の話とか、奥の席で密会さながらに食事をしている社長風の中年男性とホステス風の私たちと同い年くらいの女性の関係性についての考察など、静かに話しながら、供される料理を楽しむ。この時間のためにコース料理はある。

食事って単に食べるだけではないのだ。

料理だけではなく、時間も楽しめるのが「コース」なのだ。

 

本格的な20代後半の始まりに相応しい時間を過ごせた。