蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

夕焼けが綺麗だっただけの一日

耳の下から顎にかけて違和感があった。それは例えるなら水族館に枯山水が展示されているような、不釣り合いだがやりたいことはわかる、けれどもセンスは無いタイプの違和感だった。

なんとなく腫れてる。

熱は無いけれど、ちょっとだけ痛いような気もする。「気もする」程度の痛みなので、痛くはない。変な日本語になるが、「痛いけど痛くない」のだ。

「気のせいだよ」と言われればそうなのかもしれない。

仕事が嫌だと駄々をこねる私の妄信が痛みを生み出しているのかもしれない。

まぁこんなもの気にするまでもない。

「気のせいだろう」と一晩過ごして、軽くビールを飲んで、本読んで、ブログを書いて、消して、寝た。最近よいブログが書けない。

 

翌朝、やっぱり違和感はあった。

私はまだ正月休みなので、適当な耳鼻科へ行って簡単な薬でも貰ってこよう、と思った。

調べるとかかりつけの耳鼻咽喉医院は「営業日」ということだった。

この体調不良の種を早期に解決しておくことで、新年から体調を崩して仕事に出遅れないようにする。社会人として当然の振舞である。私は社会人なのだ。

営業開始の10時半過ぎ、病院へ行くと、やっていなかった。

「12月29日から1月5日までお休みとさせていただきます」

だと、医院のドアに楷書で書いてやがる。

インターネットでは「やっている」と言ってもそれはGoogleの希望的観測にすぎないということか、今日は1月4日なので明日にならないと医院はやっていない。しかし明日から仕事だ。

仕方が無いので、同じ街のもうひとつの耳鼻咽喉科へむかった。

「年末年始休み:12月30日~1月4日」

こちらも駄目。明らかにOfficeWordの中央ぞろえで書かれた張り紙がガラス戸に情けなくかかっている。

かくなる上はと、隣町の耳鼻咽喉科を2軒、それぞれまわったが、いずれも正月休みと称して門戸をかたく閉じていた。

別にわざわざ言うことでもないけど、一軒は1月7日まで休むらしくてもうなにがしたいのかわからない。

別にわざわざ言うことでもないけどパート2、寒空の下、隣町まで歩いた上に駅を挟んで縦横無尽に歩き回ったのでもうへとへとだった。

このまま帰るのも癪なので電車に乗って大きな街まで出て、ユニクロでフリースを買って、ラーメンを食べて帰った。ラーメンにネギをマシ、ニンニクをこれでもかと入れてやった。殺菌作用を期待してのことである。

 

帰宅後、症状と病院についてさらに調べているうちに、近所の内科がやっているらしい、という情報を聞きつけた。

午後の診察に向かうと、たしかにやってはいるみたいなのだが16時からだと思いきや16時半からで、しかも電話予約制であった。

さらに30分ほど街をウロウロして時間を潰し、行く当てもない街に住むのはこういうときに苦労するよなぁと思いながら泣く泣く見つけた公園のベンチに座ろうとしたらハト糞スポットでベンチと言うよりも便器の有様、仕方が無いので公園の一本だけ立っているハナミズキの周りををウロウロしながら医院に電話をかけて予約した。簡単に症状を伝えると、医者はフレンドリーな様子で「いいよ、来て」と言った。

その声の感じは「来てもいいけど」というニュアンスを含んでいた。医者だって正月明けで気だるげなのだ。

 

診察の結果、「よくわからないから様子見で」という結論に至った。

炎症止めみたいな薬を貰って、今後悪化するようであればすぐに来て、ということだった。

 

街を歩き回り、寒さに疲れ、口はニンニク臭く、しかもこれから帰ったら洗濯物をたたんで買い出しに出かけて夕飯を作らねばならない。

帰りに見た夕焼けが綺麗で、細い三日月が魂のように浮かんでいた。