シングルカットされた曲をまとめたもの、通称「ベストアルバム」または「ベスト盤」
ベスト盤は「ベスト」とおぞくも自称するだけあってどのミュージシャンの作品でも有名曲がてんこ盛り、初心者が入門編として聴きはじめるのに相応しいものであると言えるだろう。
私もいくつかベスト盤を持っていて、ビートルズの赤盤・青盤や、スピッツの『サイクルヒット』、サカナクションの『魚図鑑』などなど、いずれも入門時によく聴いたものだった。
そうして入門を済ませてきっちりハマったあと、ベスト盤は聴かなくなる。
ベスト盤は「作品」ではない。
アルバムは一枚通してひとつの「作品」であり、シングル曲はそれ単体として「作品」なのだ。
ミュージシャンはアルバム全体の流れを意識して然るべき場所に楽曲を配置している。シングル曲はより目立つように配置し、バラードは雰囲気を変えるために配置して歌詞を聴かせ、アルバムの7曲目っぽい曲はちゃんと7曲目に入っている。曲順はテキトーにあみだくじで並べられてるわけじゃなくてきちんと意図がある。
はっきり申し上げるけど、ベスト盤はそんな曲の寄せ集めの切り貼りであり、「アルバム」という作品としては成立していない。
たいていはリリース順に並んでいてそこに情緒もへったくれも、構成もなにもなく、スクラップ・ブックのように寄せ集められた曲群は作品としての体をなしていない。朝食ブッフェで自分の好きなものを好きなだけ載せたプレートとか『寄生獣』の三木みたいに、作品としての統率が取れていないものが多い。
本当にそのバンドが、ミュージシャンが好きなら、ベスト盤ではなくアルバムを聴くべきだ。
入門用としてのベスト盤はいいけれど、ハマったらもう聴くべきじゃないのだ。
ベストばっか聴くのはミュージシャンへの冒涜であり背信であり踏み絵である。
そう思い、この10年くらい過ごしてきた。
だけどよ。
最近、自分の持ってるベスト盤をあらためて聴き返してみたんだよ。本当に偶然聴いたんだけど。
なんか普通に、すごくよかったんだよね。
ベスト盤って、自分の好きな曲しか流れない。
ビートルズの赤盤を聴いたんだけど、知ってる曲しかないし、ずっと好きな曲がずっと流れてる最高のベスト盤だった。
スピッツのサイクルヒットもそんな感じ。サカナクションも、くるりも、チャットモンチーも、ジュディマリも、全部そんな感じ。
好きな曲しか流れない。
アルバムって「構成」を楽しむみたいなところがあって、正直べつに好きでもない曲はどうしてもあるものだけど、ベスト盤には好きな曲しかないからずっと最高なんですね。
もちろん作品としての、アルバムとしての面白さは損なわれるんだけど、でもまぁ、どうせアルバムだっていつも通しで聴けるわけじゃないし、別にいいじゃん。
好きな曲を好きなように聴いたらいいんだよ。
アルバムを聴きたくなったらそうすればいいし、ベスト盤を聴きたくなったらそうすればいい。
歌いたくなれば歌えばいいし、踊りたくなれば踊ればいい。
好きにしていいんだ。
ベストアルバムってふつうに有能なのかもしれない。赤盤を聴きながらそう思った。