帰宅したときの家の中のこもった空気は異常としか言いようがなく、さしずめ予熱されたオーブンの中のようだ。
急いでエアコンを起動するもすぐには涼しくならない。こういうときはまず窓を開けて排熱した方がいいのだが、外も酷暑で普通に熱が入ってくるので意味がない。冷蔵庫を開けて涼む。
暑いなか飲む冷えた麦茶があらゆる飲み物の中でいちばん美味しい。酒とか高級フルーツジュースに引けをとらない天然ミネラル鶴瓶。神よ。
それにしても暑い。暑すぎる。
台所の棚からサランラップを取り出そうとして取っ手を掴んだら生ぬるくて、ラップも生ぬるくて、皿も熱を孕んでいた。
洗剤も、歯磨き粉も、ハンドソープも全部温かい。
こんなことは初めてだ。
いくら南向きの部屋だからって、昼間はカーテンを閉めているのにこんなに暑くなるか?
蛇口をひねれば当然のようにお湯が出てくる。どうなってるんだ一体。
☆☆☆
最近のあまりの暑さに日傘を買った。
日傘ってすごい。日陰を持ち歩くみたいなもんで、家から駅までの道の疲労感が日傘のあるなしでまったく異なってくる。
劇的に涼しくなると言ってもいいだろう。
すこし風が吹けば日傘の下で涼しいのがいちばんの強みかもしれない。
ものすごい発明だ、と思った。どうして今まで使ってこなかったんだろう。
街行く人にも日傘を差す人が多くなってきた。
これからの時代、日傘が夏を生き残る「明暗」をわける。
女性はもちろんだけど、男性ももっと日傘を利用して残り少ない毛髪と頭皮へのダメージを軽減させるべきだ。
☆☆☆
帰路の道すがらにいいことを考えてた。
「昨日」ってもう二度と来ないけれど、「明日」は目が覚める限り何度でもやってくる。
人生にチャンスはいくらでもあるんだ。過去に囚われても「昨日」はもう来ないのだから、前を向いて「明日」を生きよう。目が覚める限りチャンスはやってくる。
などと。
いやぁ、いい気付きをした。ブログに書こう。
そう思ってアパートの階段に足をかけたその時。
「びゃびゃびゃびゃびゃ!!!!」と黒い塊が暴れて飛び回り私の目の前をかすめて壁に幾度も衝突、 した。
そのまま駐車場まで落下する塊。
駐車場からもまだ「びゃぁーーーー」と音がして、月明かりの中をよろけながら飛んで消えてった。
セミだ。
セミ爆弾だ。
はやる鼓動。背中がビンビンに冷えた。驚いて声にもならなかった。今年は蝉が少ないから油断していた。
なんで、セミって飛行タイプのくせに飛ぶのが下手なんだよ。その翅はなんのためについてんだよバカが。鳴くのに全振りすんなボケ。
だいたいよぉ、人間様の住宅で横になって寛いでんのが許されると思ってんのかコラ。木ぃにしがみついとけセミ野郎。
明日もいたら全滅させるど。
悪態を吐いて半泣きで玄関を開けると、オーブンで予熱したかのような熱気が押し寄せる。嫌んなったもう。