蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

はじめての企画書

事で、企画書を作らねばならなかった。

私は出版業界に勤めている。毎月のように本の企画を提出して企画会議にかけることをしなくてはならないのだが、まだ入社してばかりだということでこの3ヶ月は企画提出を免除させてもらっていた。

今月、はじめて企画を出すことになった。

3本の企画書を作るべくいろいろと温めていたネタがあるにはあったが、ずっと本腰を入れて調べていない状態で、まぁ、この私がアイデアを出すんだからなんとか形にはなるだろう、と鷹をくくっていた。

本腰を入れて調べ始めたのが提出の2週間前。

書店に行き類書を探してアレコレと調べるうちに、自分の置かれている状況がどれだけまずいものなのか判明していった。

ネタはことごとく潰され、ひとつひとつ調べた時間が無駄になっていく。

繰り返し書店へ行くたびに、絶望が広がっていく。

ついに提出まで3日と迫った先週の金曜の夜、私の企画書はリアルに「1文字たりとも」できていなかった。

でもまぁ、ゆーて、土日あるしな。

幸いこの土日は妻は外泊していないし、ゆっくり腰を据えて、企画を練ろうじゃないか。

またしても愚かな私は、そうやって鷹をくくったのだ。

 

土曜日は企画のために家で調べものをして、午前中に本屋へ行くつもりが、調べものが長引いて家を出たのは15時に。

それから20時まで休憩を挟みつつ本屋に入り浸り、なんとか企画3本のリソースを得て、汗を冷やして帰宅。

弁当を食い、ビールを飲み、企画書作成に取り掛かったのが21時過ぎ。ビールを飲むべきではないことはわかっていたのだが、このような場合、飲んだ方がパフォーマンスを発揮できるというものだ。血の巡りがよくなるからね。

「初めのうちは一本作るのに2時間から3時間はかかるね」と先輩に言われたのを思い出す。

まさかこの私がそんな時間を食わんだろうと鷹をくくっていた。私は本当に愚かな畜生そのものであった。

日曜の午前4時に3本の企画書が完成し、ストロングゼロを痛飲して倒れるように寝た。

 

そんで日曜の朝7時に起きた。自分でもどうかしていると思った。

部屋の掃除をし、企画書を手直しして、その日もまた足りない資料を補いに大型書店へ赴いた。1月末で閉店する渋谷の丸善ジュンク堂だ。いい本屋だったのに残念。

渋谷を歩いていると、道端にネズミの死骸がタバコの空き箱を枕にして転がっていて、前を歩いていたアベックのギャルがおかしな声を上げてとびあがった。

本屋で2時間ほど徘徊し、夕方には帰宅した。

スーパーへ買い出しに行き、帰宅したら企画書を直して、コーヒーを飲んで1時間ほど眠った。

もう、ヘトヘトだった。

それからずっと心臓が痛い。今も。

できあがった企画は3本ともろくでもない代物だ。時間をかけてなにをやってたんだろう。自信がなくなる。

 

今週末に企画会議がある。そこで先輩方にボコボコにされるのが新人の通例だという。

なんてありがたいのだろう。