蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

挫折した本紹介

 ょっとは読んでみたものの、途中で読むのをやめてしまった本がいくつかある。

 それらは本棚に入れてもらえず、私の汚い机の端っこで積まれたまま、タイトルの重圧感で私を責め立てる。

 「読め~読め~」

 うざいので、背表紙を見えないようにして積んである。今度はその読んでいない分のページ数が責め立てる。

 

 どうして途中で読むのをやめてしまったのだろうか?

 理由はさまざまあるが、一番の理由は「疲れるから」だろう。

 長かったり、言葉が異様に難しかったり、いくら読んでも頭に入ってこなかったり、内容がつらかったりして、読書意欲を摘まれたのだ。

 いつか読もうと思って積んであるそれらは私の芽を摘んだ。

 今日は積まれている本をいくつか紹介しよう。

 

 

谷崎潤一郎訳 源氏物語』全8巻

 たしか2巻くらい読んだのだった。

 2巻まで読んで、内容が全然頭に入っていないことに気付き、そこまでくると登場人物の誰を指しているのか、いったいなにが起こったのか、まったくわからなくなって、やめた。

 甘かった。

 好きな谷崎だし、読めるかなぁと思ったけど、文字が小さく、思ったより現代語訳されておらず、漢字が旧字体で、用語もいちいち調べないとわからないものばかりで遅々として進まない。

 現代語訳ってんなら、飲み物がタピオカミルクティーと訳されるくらいライトであってほしいものだ。昭和初期の本に望むのは酷である。

 擁護するが、谷崎はとても丁寧に訳している。

 原本の重厚感を失わない、平安の雅を昭和初期的に解した、谷崎の作家としての腕がいかんなく発揮されている作品である。

 私は無知蒙昧なので、ようするに莫迦なので、ぜんぜん読めなかっただけだ。

 いつか絶対読み切ってやりたい。そのために、もっと近い現代作家の訳した『源氏物語』や漫画で内容をおさえておきたいところだ。

 

 古本全巻で4000円也。

 

 

『大衆の反逆』オルテガ・イ・ガセット

 NHK100分で名著!みたいな名前の番組で紹介されていた本で、番組を見ていたく感動し、その勢いのまま購入して、50ページ読んでそれっきりになっている。

 番組の構成がうまかったのだろう、これくらいならオレにも読めそうだな、と思った。

 たしかに、哲学書などに比べて読みやすい気はする。訳もわかりやすい。

 ただ、非常に疲れるのだ。なにせ、内容は難しいのだから、少ない脳細胞をフル回転させて読まなければ理解できない。

 

 なるほど、あのNHKの番組は、読もうと思っても読めないような本を説明してくれるんだな。番組を見たから、読んだことにしちまおうか?

 

 新品本950円也。高い……。

 

 

失われた時を求めてプルースト

 これは厳密には積んでない。ただ、確実に摘まれた本だ。

 大学のサークルにフランス文学科の女の子がいて、その子から借りていた。もう返したので、手元にはない。

 3回挫折した。もうだめだろう。

 第1巻を2年半くらい借りていて、その一冊を3回挫折したのだ。

 これはだめだ。

 なんか読んでいて、なんだろう、とくに感想が思い浮かばないのは、何回読んでも頭に入っていないからだ。

 これはもうだめだ。

 いつかプルーストを読める日が来るだろうか?

 でも、後輩と先輩は『失われた時を求めて』を読破している変態で、どうやらこれを読むには資質が必要らしい。

 私にはなかった。

 でも、私は変態ではないことが証明された。

 

 私にとって、本当に時間を失ってしまった本である。

 

 

『洒落本 滑稽本 人情本』日本古典文学全集

 これはどういう本かというと、図書館に置いてある、あの分厚い古典集成本である。2段構成になっていて、本文があり、ページ上部に用語説明が書いてある。現代語訳はついていない。

 どうして買ったのだろうか?

 説明しよう。

 ノリである。

 なんか古本で安かったから買ったのだ。300円だった。300円。

 図書館にある本がうちにもあったらちょっとは本棚も引き締まるかな、と思ったけど、読んでないので本棚に入れられていない。

 実際読んでみると、近世文芸は古文調が軽くて読みやすい。わからない単語はそんなになくて、一般的な高校古文の勉強が頭に入っていれば余裕で読めるだろう。そんなに入っていない私でも読めるのだ。

 でも、読めない。

 なぜか?

 時間と気力がないのである。

 こんな重厚なやつ、どうして読めようか?完全に気おされてしまっている。威圧感がものすごい。

 

 でも面白いので、ちびちび読み進めたいと思う。そう思い続けて半年経った。

 

 

『にんじん』ジュール・ルナール

 この本は児童書みたいで、分厚くもないし読みやすい。

 しかし最後まで読めなかったのは、内容がつらかったからだ。

 主人公は「にんじん」と呼ばれて家族から蔑まれている嫌われ松子みたいな男の子で、精神的虐待に苦しみ、それが原因となって心が歪んでいく。

 読んでると気分が落ち込む。

 うつ病の人に読ませたら、電車に飛び込むいいきっかけになるかもしれない。

 

 気分をアゲたいから本を読むわけではないけど、『にんじん』は個人的にきついものがあった。子どもが苦しむものは苦手なのだ。

 

 

*****

 

 

 ここまでいくつか紹介したけれど、どうしても読めない本がもう一冊ある。

 私の教授が書いた論文集である。

 読んでると眠くなるので、2ページ以上読めたことがない。睡眠導入剤、と呼んでいる。