私の通っていた高校は野球にひじょうに力を入れていて、野球部員は100人を超えていた。
学校をあげて応援しており、そのため野球部員はクラスでもカースト上位で、何を勘違いしたか練習をサボりがちなペラペラの部員まで図に乗っていて威張り腐っていたから大嫌いだった。ベンチ入りしていないやつらこそ威張っていて嫌だった。
とはいえ、野球応援となると楽しいものだ。
ルールもよくわからないのだが、応援するのはなんだかお祭りみたいで楽しい。
神奈川県の予選大会は熾烈を極めており、たいてい全国制覇経験のある横浜高校か東海大相模が上位に食い込んでくるため、私の高校はそれらの超強豪高校に敗れ予選で散っていた。
私が応援に行くとわけのわからない公立の格下ヤンキーぞろいみたいな高校に負けたので、以来応援には行かないことにしている。
大学生の頃、夏はきわめて暇だったので、昼から全然知らない高校同士の試合を、ビールを啜りながら、本を読みながら、Twitterをやりながら観戦していた。
中学の同級生が進学した高校や地元のヤンキーが通っている高校を応援()していたが、結局負けてしまって最後は横浜高校や東海大相模が全国への切符を勝ち取る。
それでもまぁ、おもしろいものだ。
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神奈川テレビでは夜になるとその日の県予選の試合の様子がダイジェストで放送され、選手や監督、応援団の子たちに取材をしてそれぞれの夏を追っている。
お便りコーナーまであって、選手への応援メッセージが親御さんやOBGから届けられてアナウンサーに微笑ましく読まれる。
それもまたなんだかおもしろい。
というのも、完全に身内ネタだったり、OBGの老害じみた「私が高校生の頃は(30年前)~」といった「知らんがな」みたいなコメントが寄せられ、ともかくそれぞれの夏があって、同じ季節の中で私たち他人同士は繋がっているんだな、なんてアナウンサーの声よろしく微笑ましい気持になれる。
そのお便りコーナーで忘れがたかったお便りがあった。
それは、その日の試合で負けた高校の選手にあてた、選手の母親からのFAXだった。
2~3年前のことだ。
細かい部分は忘れたので補いながら、内容を要約しよう。
「今日の試合、負けちゃったけど、あなた(選手である息子)はお母さんに忘れがたい夏と思い出を教えてくれました。
あなたが高校で野球を始めるまで、お母さんは野球なんてぜんぜん興味がありませんでした。でも、一生懸命練習に打ち込むあなたを見て応援したくなり、今日の最後の試合まで、すべての試合を見に行って、応援しました。練習も見に行って、そこでほかのお母さんたちとお友達になって、みんなで応援するのはと思う。とても楽しかったです。
この齢(とし)になって新しいお友達ができて、新しいことに熱中できたのは、かけがえのないあなたのおかげです。
負けてはしまったけど、最後まで戦ったあなたは自慢の息子です。
お互いにとって、かけがえのない3年間でしたね。
たのしい3年間を、どうもありがとうね」
こんな感じのFAXだったと思う。
テレビの前でボロボロ泣いた。
高校野球は、選手たちが主役だ。
だけど、見ているすべての人に、同じ夏を教えてくれる。
それは努力のつらさや、爽やかさや、悔しさやよろこび、そして美しさだ。
プロじゃないからいろいろと杜撰(ずさん)な試合ももちろんあるけれど、そのぎこちなさだったり甘さだったり飾り気のなさが、誰しもあった十代の夏を心の深いところで思い出させてくれるのだ。
高校野球の美しさがドストライクだ。
すべての選手、がんばれ!