WBCの決勝の模様は、仕事だったため観ることは叶わなかったが、Yahooニュースを10秒に一回更新することで、リアルタイムでの戦況は知ることができた。
一球目はどこに投げた、二球目はどこに投げた、と逐一情報が出てくるので、試合を脳内補完するのに困らない。
とは言ってもミーハー中のミーハーである私は選手の名前が出ても正直よくわからない。知っているのは、大谷選手、ダルビッシュ選手、23歳の山上選手(山中?村田?村山?だったかも)、ヌールバー選手(こちらも曖昧だ)くらいだ。
ましてやアメリカ人の名前なんて1人も知らない。
だがそれでも、なんとなく状況は伺い知れ、仕事をするふりをしてf5キーの連打が止まらなかった。
上司も同じようで、誰かが打つたびに顔を見合わせた。
会社ビルの他の階にテレビがあるというので、上司は打ち合わせに行くと言い、我慢できずにそのテレビへ向かったのだが、電源は入るものの画面が映らなかったらしい。故障である。抜け駆けは許されない。
結局、試合速報で日本の勝利を知る。
サイトの表示は「試合終了3-2」とだけ質素に出ていて、だがそれだからこそ、勝ったという事実が浮き彫りになるような気がした。
「勝ったね」
「勝ちましたね」
「いや〜よかった」
「強敵でしたね」
みんな、大声で騒いだりはしないけど、勝利を喜んでいた。
上司とランチを食べに外に出て、入った店はスポーツ観戦もできるところだったらしく、大画面で優勝記者会見の模様を映していた。
みんなが大谷選手に釘付けになっていた。この人の発する言葉には、この人の投げる球のような力強さがあり、言葉を実行できる大谷さんの心のあり方と、言霊のようなパワーを感じられる。
「憧れるのはやめよう」と試合前に発した彼の言葉には息を呑んだ。
「憧れていては、勝てない」
おっしゃるとおりだ。今日からこれを座右の銘にしようと思う。
9回、最後にマウンドに上がり、三振を取った大谷選手。
なにからなにまで漫画みたいな展開で、彼は圧倒的に主人公だった。
そして次の主人公は、すでにもう生まれているのだろう。彼の活躍をテレビで見ている、野球キッズが。
「試合、見たかったっすね」
「見たかったな」
上司とはそんな話をポツポツして、お昼休みいっぱいまで店のテレビを見ていた。
唯一、店員のインド人たちだけは野球にまったく興味がないようだった。