蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

シャラップ!モスキート

 ちゃくちゃ蚊に刺される体質だ。体温が高いせいかもしれない。子犬並みの体温だから。

 

  ↓

 

 日曜日は恋人と新宿御苑でピクニックをした。

 木陰にシートを敷き、寝転がったり起き上がったり座ったり立ったりして日曜日の平和な秋のはじまりを堪能したのだが、あいにく私は蚊に刺されてしまった。

 

 そりゃ刺すだろ。8月の木陰だもの。

 

 そう短絡的に考えなさる皆様におかれましてはいかがおすごしでしょうか。夏は終わろうとしています。

 蚊に刺されやすい体質である以上、虫よけスプレーをしていたに決まっているではないか。たわけが。

 私は半袖Tシャツに7分丈のモンペを履いていた。肌の出る所に虫よけスプレーを撒く。特に足は重点的にスプレーを散布し、首にもぬかりはないはずだった。毒ガスを体に吹きまくる私の風下にいた恋人は咳き込み、涙目で睨まれた。美しい目だ。

 

 それなりに重点的にやったつもりだった。

 だが、刺された。

 

 まず刺されたのは耳の後ろだ。耳の後ろまで虫よけをしていなかった私が悪い。耳は蚊の羽音を捉えるため、油断して散布をしなかったのだ。私は難聴を疑った方が良いかもしれない。一夏分も血を吸われてしまい、ぱんぱんに腫れあがってしまった。

 次に刺されたのは手首だ。腕は虫よけスプレーを撒く部位の基本中の基本、スタンダードな部位ではあったが、私が差された手首は、スプレーしたときに腕時計をしていたところであったため、部分的に薬剤が付いていなかったのである。私は寝転がった際に身軽になりたさから腕時計を外していたのだ。近代人たるもの、常に時間に縛られていないと駄目だ。反省しよう。

 さらに次に刺されたのはふくらはぎだ。7分丈のところまでしかスプレーしていなかったために、寝転がった際にわずかに露出するふくらはぎの6分目のところをしたたかやられた。

 そして最後にやられたのは、足の指である。靴下を履いていたとはいえ、靴を脱ぐ以上、布の上からでも刺される可能性を考慮すべきであった。注意を怠った。完全に舐めていた。

 

 私は蚊を舐めていた。

 やつらは隙を突いて皮膚を食いちぎるのだから、もっとぬかりなく、恋人が呼吸困難になるくらいスプレー散布するべきだったのだ。周りの人に煙たい目で見られるくらいやらなければならなかったのだ。シートの四方に蚊取り線香を焚き、結界をあつらえるべきだったのだ。

 

 悪いのは私だ。

 

 

 と、言うとでも思ったか。

 蚊が悪いに決まってる。

 なんでそんなに目敏く隙を突いてくるんだ。そんなにスプレーしてなかった恋人の方を一回くらい襲ってもよかっただろ!恋人ははたして一度も刺されなかった。私が「蟲寄せ」になったためである。

 

 蟲寄せ。ファンタジー漫画の特殊な能力みたいだ。

 だがあいにくここは透明の血が流れ続けている現実であって、私に寄る蟲は害虫しかない。

 

 

 蚊は発展途上国をはじめ、多くの国と地域で病原菌を媒介し、年中おびただしい数の人間を殺している。それはそれとして、私がかゆいのはさらに大問題だ。

 絶滅させるべきだ。

 それで生態系がぶっ壊れても仕方がないだろう。私が刺されてかゆみに苦しむ方が世界の終りよりも重大な問題なのである。

 

 ちなみに、蚊の次に人間を殺しているのは「人間」らしい。

 両成敗すべきかもしれない。