ウルトラの一族に生まれていたら、正直私は「ウルトラのニート」になってあの歌にも出てこないで、ウルトラマンタロウの足を引っ張る「兄」として肩身の狭い思いをするんだろうな。
ウルトラの父がいる、ウルトラの母がいる、そしてタロウがここにいる、(ちなみに兄は部屋にいる)。
ウルトラマンは怪獣を倒す偉大な存在だ。
その「父」ともなれば権力は絶大で、市議会議員くらいの立場はあるのだろう。
立派に角をはやし、じつに権威的な象徴である。
それに、母もウルトラときた。
たぶん英才教育を施すタイプで、セミナーやお茶会にも積極的に参加して場を仕切り、PTAでは強い発言権を持っているのだろう。
弟のタロウも言わずもがなエリートで、その存在意義を誇示するように怪獣を倒し、存在意義を遂行して地球人に愛され、きっと中学生の頃から彼女がいてクラスでも男女問わず人気で先生からの信頼も篤かったに違いない。
きっと良い大学にストレートで受かり、大学3年生のときに3カ月間イギリスに留学していたに違いない。医学部か法学部に違いない。
大学院に進学も考えていたかもしれない。
凡夫の私は、文字通りそんな超人的な家族についていけず、高校生くらいのときに、むざむざ家系をまもるためにウルトラ稼業に骨身を費やし、自分を殺していく運命に耐え切れずに「ミュージシャンになる」などと言って父母と決裂、家を飛び出し、しばらくは下北沢あたりの小さい箱で「すぺしうむ」というバンドを組んで生計を立てようとしたが、所詮は凡夫、自分に才能が無いことに見切りをつけるのが遅くて弟が大学を出てウルトラ稼業を始めた頃にバンドを辞め、ひものような生活をしていたが才能が無い男に女は甘くなく、七つ年上の女にも見限られ、すごすご実家へ帰ったのであった。
すると家族はあたたかく私を迎え入れてくれた。
意外だった。
あの厳しかった父さえも、私にやさしく、母はいつも家にいて、弟はあの頃と変わらず「兄さん!」と親しくしてくれて……
……私は部屋に篭ることにした。
ヒーローは心も立派だった。
家族を見放した私を、逃げた私を、捨てた私を、心配してくれた。
その心の強さが、私の弱い心を捩じ切ろうとしてくる。
ウルトラの兄がいる、となんとなく口ずさんでみたら、久しぶりに涙が流れた。こんなにしょっぱかったっけ。
弟がむかし壁につけた傷跡が笑っているように見えた。
カラータイマーが薄暗い部屋にぴこん、ぴこん、と静かに脈打っていた。
3分はあまりにも長かった。