「ひと昔前で言う、栄養失調だね」と医者に言われた。
会社の健康診断だ。
問診でシャツをまくりあげた私の体躯を見て、老獪の医師は憐れむようにそう言った。
「BMI値が18を切ってちゃダメなんだ」
「僕は、ダメですか」
「ダメだね」
私のBMI値は17くらいで、適正体重より15キロ近く少なかった。
戦後かよ。
アメリカ軍に保護されるのではないか。保護されて、やたら肉を食べさせられるんじゃないか。肉は安くて硬いんじゃないか。
「ここまで痩せていると、病気になりやすい。はっきり言って、君は病気寸前ってとこだよ」
「病気寸前」
「いつ倒れてもおかしくない」
昔から悲しいくらい痩せているので、これが普通なのだとおもっていたのだが、数値によって異常が明らかにされ、医者の口から忠告されると生々しい現実味があった。
だが、周りの若者を見ても、私と似たような体型の男は多い。
決して私が特殊なわけではないだろう。
それとも、見た目が私と同じだけでみんなの肉袋の下には重厚な筋肉や密度の高い骨が詰まっているのだろうか。
そんな肉体はどこで手に入るのか。
そういえば周囲を見回すと、私と同年代の若者の体躯は、やけにほっそりしている気がする。
ひょろっとして、シメジがにゅにゅにゅと伸びたようで、小学6年生がそのまま大きくなったような体型が多い。
一方で半回り上の世代になると、背中がどっしりして、肩幅があり、なんだか「大人」と言わせしめる体型をしており、エリンギ型と言える。
この差はなんなのか。
生命力の差、なのだろうか。
運動量の差、だろうか。
真夏の猛暑や、公園での「運動」の規制により、今後も外での運動は減少していくだろう。ボールを投げては怒られ、木に登っては怒られ、ただ集まっても怒られ、集まらなくても怒られる子どもたちは可哀そうだ。好きに遊ばせてやればいいのに。大人たちも昔は子どもだったのだから。
話をそらして、このまま「声の大きいアンチ」へのヘイトに話題を転じてもいいのだが、朝からイライラしても趣がないので、話を戻そう。
ともかく、体の細い私に、医師は次のように言った。
「一日五食たべなさい。それも、おやつにチョコレートなんかを食べるんじゃなくて、カニカマとかチーズとか、たんぱく質を摂ること。
空腹になった状態で働くと、筋肉が溶ける。君はこれ以上身体を溶かしちゃいけない」
筋肉が溶ける、というパワーワード。
私は空腹になりやすく、食べるのも面倒だし、おやつを食べると小食ゆえに夕飯などが食べられなくなるので、ギリギリまで水以外は口に入れないようにしていたのだが、どうやら逆効果であったようだ。
私は我が身を溶かしながら生きていたのだ。
とはいえ、一年前と比べると、これでも体重は1キロ増え、ウェストも1センチ増したのだ。
ゆっくりと健康へ向かっている。着実である。