蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

TIK TOKでもはじめようかな

  自分が高校生のときにTIK TOKがなくてよかったとおもう。

 教室でカメラを向けられて無理矢理全員参加のダンスを踊らされる恐怖……

 そういうのを想像すると、背筋がゾっと凍える。

 

 なんかわからないけど、クラス全員参加ね!みたいなことをバスケ部が言い出して、なんか日常の教室だったのが音楽がかかると急に全員踊り出して面白い!みたいなの撮りたいらしいのだけど、私はそれに参加したくなくて(なんであれ強制は嫌いだから)、でもバスケ部って意外と優しいから、ああ、そうだよね、蟻迷路は普通にしてていいよ~とか言われてさ、私以外にも踊らないガリ勉(ガリ勉のくせに教室で8番手くらいの成績)や、なんらかの精神疾患を抱えていそうないつも独りでいる女子がボーッとしていて、3人はクラスの人たちに「ノリが悪ぃ」とすら言われず観葉植物程度にしか認識されていなくて、一方で私はその扱いが不当であると思うと同時に凡夫には私の価値はわからんのだろうと妙に高飛車で、周囲に参加をしないで孤高になる事が才能の証明といわんばかりにこの一連のイベントに対してすごく冷めた気分で、こんなことをするのはガキでつまらない凡夫のやることだ私は三島由紀夫を読んで精神を磨くんだ精神的向上心の無いものは莫迦だ、などとブツブツ言ったりツイートして、背後できゃっきゃと騒ぐ声、嫌でも耳に入る、普段はオタク寄りの演劇部の絶妙に容姿に不手際のある女たちがやたら早口で「オイィィィィィィィィィイイイイ」とか叫んでて、周囲の、オタク女つまんね~みたいな空気を包含しつつもあえて口には出さずなんかとりまとめているバスケ部女子(やたら可愛い)、頭も良くて水泳部のイケメンが爽やかに笑顔を振りまいて甘酸っぱくて、野球部がその体躯を駆使してなんか重いものを持ち上げたり脱いだりして見てられない、ああ、クラスにはいろんな奴がいて、いろんな考えがあって、それがダンスによってひとつにまとまっていくなんて、私はそんな「いろんな奴」の一部にもなれなかったんだ自分から孤絶したんだ、あ~あ私はいつからこうなっちまったんだろうな、同志よ、と精神疾患を抱えてそう女子を見ると深爪を噛んでプチプチ歯を鳴らしていて、ガリ勉は舌打ちをして教室を出て行き、絶望のぬるま湯に浸っていると、その間に撮影とやらは終わったらしく、「いぇ~い」「これバズるわ」って盛り上がっていてその声が本当に喧しくて三島の行間から排除しようと必死になっている私であるが、帰宅してバスケ部のやたら可愛い女子のTIK TOKアカウントに上がっているその動画をいちおう見てみると、画面の隅っこに私の丸くて小さい背中が震えていて、クラスメイトの笑顔を引き立たせるのに一役買っているではないか。

 死のう。

 

 こうなっていたことだろうから。

 

 だけど最近になっておもうのは、なんであれ「つまらない」と跳ね返して理解する努力も持たない姿勢は、その人自身がつまらないのであるということだ。

 それをおもしろいと思える教養というか、資質みたいなものが欠けているのではないか。

 もちろん精神年齢のレベルにもよるだろうけど、赤ちゃんの番組を見ても面白いと思え、琳派の展覧会を興味深く思え、カブトムシの生育が趣味で、カントを読む人がいたとしたら、その人の感性は広くてじつに面白いものだとおもう。

 

 私もTIK TOKを、はじめようかな。