電車の路線図を眺めることは趣味と言えるのだろうか?
趣味と言うほど熱心でもなく、電車の壁に貼ってあるものをときどき眺める程度なのだが、見始めると熱中することがある。
どこか遠くの街の、知らない電車の路線図を見つめて、その場所に旅行に行ったらこの駅で降りるのだろうとか、この街に住んでみたらこんなところがあるのだろう、などと妄想を膨らませて、ない現実を夢想することに勤しむ。
よっぽど暇なのだろう。
路線図を見つめているとさまざまな気づきがある。すべての土地に名前が付いているのだなぁとおもうものだ。そして地名にはもちろん意味がある。
これは井の頭線の路線図の一部だ。吉祥寺─渋谷を結ぶ路線である。
渋谷は言うまでもなく副都心で、吉祥寺は武蔵野のほうへつづく住みよい街である。
この路線図を見ているだけで、吉祥寺に至るまでの地形がなんとなく見えてくる。
浜田山─高井戸─富士見ヶ丘─久我山─三鷹台 という一連の駅名から、なんかこのあたりの標高がちょっと高いことがわかる。
「高井戸」という地名は古くからありそうなくせに由来がよくわからなかったのだが、これで合点がいく。きっと、「高い場所にある井戸」というそのままの意味なのだ(下高井戸という場所もあるがそれはおいておこう)。
渋谷は「谷」なので土地が低く、途中の下北沢は「沢」なのでおそらく、吉祥寺方面から渋谷方面にかけて土地がだんだん低くなっていってるのだろう。
これは小田急小田原線の路線図の一部。
「相武台前」という駅名がある。高校の頃、友だちが相武台前に住んでいた。
彼曰く、「相武台」と称する台はどこにもないらしい。本当かどうか知らないが、彼が言うにそのような台はなく、小田急が勝手に「前」をつけているだけらしいのだ。
これはちょっと怖いことだ。
新潟県にある糸魚川(いといがわ)という地名も似たようなもので、実際「糸魚川」という川は歴史上どこにも存在していなかったらしい。
なぜ、ない地名が「ある」のだろう。
小田急の路線図を眺めているとき、このような地名の闇の隅をつつくような不安を覚える。
千葉県の路線図を見てみよう。
路線図を中心として無理矢理地形を当てはめている歪な千葉県の地図だ。
路線図のこういう歪さに想いを馳せても面白い。
きっと地図会社の人は、路線図の邪魔にならない程度に地形を描くことに苦心したはずである。本来の地形から逸脱しすぎてもよくないし、かといって本来のものに倣うと路線図が見えにくいし……その点において、この千葉県の路線図はかなりギリギリなのではないか。
ところで、「千葉」の右上を見ていただきたい。
「ユーカリが丘線」がある。
張りめぐらされた鉄道網のなかで、ユーカリが丘線は路線図といい、名前といい、なんだかユーモアにあふれてテーマパーク的な趣があるではないか。
こういう「謎路線」は他にもある。
JR鶴見線、どうやって運行しているのだろう。
海芝浦行き、大川行き、扇町行きがそれぞれあるのだろうか。
鶴見線はなんの用もないけどそのうち乗ってみたい。
鉄道好きなので、鉄オタの友だちがほしい。いろいろウンチクを聞きながら乗っていたい。
ゆりかもめも 芝浦ふ頭 ─ お台場海浜公園間で一回転するところがテーマパーク感ある。
きっと乗客を楽しませようとしているんだなぁ。そうに違いない。
駅のホーム間を移動するための歩道橋は人を楽しませるために架けられていると勘違いしていたのは誰だったか、思い出せない。
そんなエピソードを思い出さずにはいられないけど、それにしても、こういう一回転や変わった路線図は、人を楽しませるためにやってるんだとおもった方がちょっと幸せになれる気がする。
そんなことを考えながら移動の時間を潰すのも雅ですよ。
よっぽど暇なのだろう。