昨日の夕食はブリ大根とモヤシの和え物と、小エビのから揚げにした。
ブリ大根とモヤシは彼女が作り、小エビは私が揚げた。
スーパーで腐りかけのエビが不当な安値で売られていた。開封すると生臭くて、地元の釣り場に放擲されたオキアミの液体を思い出した。あれはたしか、夏だったと思う。
レシピ通りに下処理をし、下味をつけ、からりと揚げて、食べてみると、美味しかったのだが「良いエビならもっと美味しかったんだろうね」と恋人が言った通り、そんな感じの味がした。だが、こんなんでもエビを食べた、という満足感はあったので、また安かったらやりたい。
恋人の作ったブリ大根もモヤシもとても美味しかった。
夕食後、部屋の中ははたして、海鮮市場か?ってくらいすごいにおいになって胸焼けがしたので窓を開け、換気扇を回した。
ああ、春風、夜の春風は美しいね。こんなときはファミレスでパッフェでも喰らいたいものだね、と恋人と話し、「今月は食費に余裕があるから、パッフェのひとつやふたつくらい余裕でしょうよ」と即座に二人で合意、我々はかるくジャケットなどを羽織って、出立の準備をした。
家からファミレスまで徒歩3分。この距離で、パッフェを食べたいと思ったのに(そして金銭的余裕があるにもかかわらず)パッフェを食べないのは、食欲への冒涜である。あくまで私たちは生きることに貪欲でなければならない。快楽に忠実でなければならない。使命感に駆られた私たちは厳しい目でデニーズへ行軍した。
パッフェの「爽やか」で、この口の中の、魚介感を払拭したい。
甘味を享受したい。
なにせ春だよ。イチゴの季節だよ。
しかしデニーズは閉店していた。
緊急事態宣言。
19時半がラストオーダーで、20時で閉店。
現在、20時過ぎ。
なにを、どこを、どうして責めることができようか。
これが、今の日本。
「緊急事態」が宣言されているのだ。春風が気持ちいいな、そうだ、パッフェを食べよう、なんて浮ついた気持ちで出掛けて良い夜なんて、無いのだ。
「帰ろうか」
「うん」
諦めて現実を受け入れたとしても、パッフェへの欲求は消えるわけじゃない。
我々は近所のセブン・イレブンに寄り、なんらかのスイーツを買おうと決めた。
なにかを買ったのだが、正直自分は何を買ったのか思い出せない。結局甘味ではなく、アルコールの誘惑に負けたところまでは覚えている。できるだけ強めのものを選んだのだ。
帰宅すると、家じゅうエビのにおいでむせ返っていた。逆説的にパッフェを思い出す。
すぐさま換気して、春風にあたりながらアルコールをがぶ飲みした。