蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

最初の自炊

々にそうめんを茹でた。

久々に、というのも当然だ。そうめんは夏にしか茹でない。

夏が来た、ということだ。

 

麺つゆの器も昨夏以来の出番。寝起きの埃かぶった表面をよく洗って目を覚ましてやる。起きろ。もう夏だ。

この日は性格の悪い雨が降っていたけど、風は生温かくて肌に纏わりつき、寒さは感じなかった。雨が降っても寒くない。雨の温度が夏を知らせる。

そうめんはピーカン照りのクソ暑い日にも美味しいけれど、意外と雨のうっとうしい日にも美味しい。

喉を抜ける爽快感と冷たさが、全身を蝕む湿気と うだるような熱を追い払う。ちゅるりと飲みこめば、夏にしか味わえない「涼しさ」に浸っている。

 

そうめんの付け合わせに鶏モモ肉のソテーを作った。これはネギソースを絡めるソテーで、揚げてない油淋鶏をイメージしてほしい。

モモ肉を解凍して開き、熱したフライパンでカリっとするまで焼き上げる。

ネギを刻み、醤油や酢と混ぜ、豆板醤や生姜も入れる。

暑くて食べたい気分じゃなくても、酸味と辛味が食欲増進させる夏にぴったりの料理だ。

 

実はこの鶏もも肉のソテーと そうめんは昨年夏に恋人と同棲を始めて、はじめて自炊した食事だ。

はやいものであと1か月半ほどで、同棲をはじめて一年になる。

あまり逞しいとは言えないかもしれないけど、それでも二人で稼いだお金を使って、二人なりに生活を営み、人生を歩んでいる。いまのアパートが居場所になり、居心地の良さを感じ、なんていうか、自分の場所、って思う。すっかり生活に馴染み、人生の一部になった。

へんな感想に見えるかもしれないけど、こうした営みにふと客観的になって「ああ、生活しているんだな」と言葉にしてしまえばそれだけの、しかしそれ以上の、感慨を抱くのだ。

そうめんと鶏肉のモモ肉のソテーを初めて作った夜はぜんぜん食器も無くて、段ボールとかまだ置きっぱなしで、生活に馴れていなくて、先行きが不安だった。

でも、美味しかった。

 

 

恋人が帰宅したので そうめんをザルからあげて、皿を並べた。

「あ、この組み合わせ、引っ越して最初に作ったやつじゃん!なんかエモいな~」

彼女がそれを覚えていたのが、なんだか嬉しかった。

 

 

今週のお題「そうめん」