月曜の朝、ハイチュウを炎天下の線路の上に並べ続ける悪夢から目覚めると、私は体調不良に陥っていた。
目が回り、足元がフラフラして、吐き気と腹痛があった。ひどく寒くて思わず羽毛布団にくるまった。
私の会社では出社と在宅勤務があり、体調が悪いときは強制的に在宅勤務になる。
その判断は自己申告制なのだが、こういう昨今だし、自分で在宅を選べるならその方が良い。
在宅勤務がはじまる時間まで横になって様子を診ることにした。ちょっと横になれば治ることもある。悪寒はしたが、体温を測ったら熱はなかったし、大したことはないだろう。
普段は私が紅茶を淹れたり恋人のパンを焼いたりするのだが、フラフラしてそれもできないほどだった。ひどく寒くて震え、口の中がどろどろしていた。
「大丈夫なの?」と彼女は心配をする。きっと大丈夫だと思う、と答えたが、自分でもわかるくらい声に張りがなく、なんとなくダメそうだった。彼女には謝って、今朝は自分で全部用意するように頼んだ。
腹痛と吐き気には波がある。
ピークに達したときにトイレに行くが、どうしても吐けない。胃の中が空なのだろう。あるいは吐く心の準備ができていないのかもしれない。月曜の朝から吐きたい人間なんていないだろう。
鏡にうつった私は青ざめていて、浜に打ち上げられた水魚みたいな目をしていた。
やれやれ。病人じゃないか。
結局一時間寝てもいっこうに良くならなかったので、この日は思いきって休みを取った。
不思議なことに、休み連絡を入れたその時からなんだか体が軽くなってきた。
お茶を一杯飲み、窓を少し開けて風を入れ、午前中は眠った。
目覚めると昼過ぎで、体調はすっかり良くなっていた。
腹が減っていた。涼しい風が吹き込んで、実に気持ちの良い天気だった。自分がどうして休んだのか忘れるほどだ。寒気も無い。
ちょうどお昼休みが終わったくらいの時間か……。
今頃みんな、なんの仕事をしているだろう……。
こうなるとなんだかズル休みをしているみたいで、別の意味で気分が悪くなった。
元から決めていた日に休暇を取るのは好きだが、当日いきなり休むのは気が引ける。月末は処理も多いし、月曜日はただでさえ忙しいのだ。こういう日は問い合わせが多くて自分の仕事に手が回らないだろうに、私の分の仕事まで押し付けてしまっている。
途端に罪悪感で胸を絞られるようだった。
休むなら心まで休めないと、休みじゃない。
どこにも落ち着けない気持ちで本を読んでいたらあっという間に夜になり、五月が終わった。