蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

雨と疲弊とコインランドリー

「そろそろ布団をコインランドリーに持って行きたいの」雨の日に限って恋人は面倒な話を持ち出す。

近所のコインランドリーまでは徒歩で10分ほどかかり、急な坂道を登り下りしなければならない。布団を持って、しかも雨の中歩くというのは、これは結構な労働である。

「やれやれ」と私は言った。

しかし、そろそろ布団を洗いたい、という意見には大賛成だった。

私はまだ冬用の羽毛布団を使っていたので夜は寝苦しくて汗をかき、夜中に目を覚ますことしばしばで、いいかげん布団を夏用にしなっきゃなぁと毎晩、思っていたところだ。

もう、夏。

さらさらした夏用布団を洗って、気持ちよく眠りたいではないか。

「面倒だが、行くか」

私たちは日曜の朝、朝食を食べてすぐに準備した。

 

コインランドリーへ用事があると、毎回恋人と諍いになる。

「コインランドリーへ行くついでに買い出しを済ませたい」思いが二人にはあって、その手段(順序)の食い違いで意見が衝突する。

布団二組をコインランドリーの「洗濯・乾燥」に預けた後、近所のスーパー2軒に寄り、その足で布団を回収する、というかぐや姫なみの難題を恋人は提案するが、そんなことは不可能だ。

「二人分の布団を持ったうえで、一週間分の布団を持つなんて無理だよ。よっぽど頑張れば不可能じゃないかもしれないだろうけど、僕はごめんだね。あるいは君に腕が6本生えてたら話は変わって来るけど、僕たちは二人で腕が四本しかない。この星の多くのカップルはそうなんだ」

「なにを言ってるの?」

私の作戦は次のとおり。

布団を「洗濯・乾燥」に預けてその足で買い出しへ行く。いったん買い出しの荷物を家に置いてから、コインランドリーへ再び行く。

家とコインランドリーを二往復することになるが、仕方がない。

とりあえず健全なこの作戦で我々は任務に取り掛かった。

 

しかし、コインランドリーに着いてさっそく作戦は破綻する。

「洗濯・乾燥」のドラム式が空いておらず、「洗濯」のみか「乾燥」のみの機械しか空いてなかったのだ。

こうなると作戦は変わってくる。

 

まず「洗濯」をする(50分)

   ↓

買い出し

   ↓

「洗濯」が終わったら「乾燥」しにコインランドリーへ戻る

   ↓

「乾燥」の間に家に戻り、買い出しの荷物を置いてくる

   ↓

「乾燥」が終わった布団を取りに行く

 

面倒くさいが、こうするより他はない。

あとは簡単な諍いだ。

「わたしが布団乾燥回しに行くからあなたは買い出しの荷物を家に置いて行ってよ」

「そんなの君が二度手間だろう。乾燥終わるまで待ってるつもりか?」

「人が沢山来るコインランドリーで女一人なんて不安なものもないわよ。やっぱりわたしが家に戻るからあなたはコインランドリーに行って……」

「って、まぁ別にいいけどさ、買い出しの荷物持てるの?一人で。かなりの重さあるよ」

「じゃあどうしろというの?」

「効率は悪いけど、ぜんぶ二人でやるんだ。二人で行動しよう。すべての恩恵は二人のものだけど、すべての痛みも僕たち二人のものなんだ」

「車が……車が欲しい……車さえあれば……」

 

いつもこのような言い合いになって、結論は「車が欲しい」に帰結する。

これだけのために車を買うわけにはいかないが、まったく同じ意見だ。車が欲しい。

あるいはドラム式の洗濯機を導入すべきか……なんにせよ金が欲しい……

 

無いものの話をしてもしかたがない。

 

結局、我々には車が無いので、コインランドリーとスーパー、家の間を徒歩で往復し、重い荷物を持って急な坂を登ったり下りたりし、終わったらへとへとになって、いい運動になったけど、いろいろと疲れてしまった。

 

洗いたての新品みたいな布団で ふて寝した。