6月に漬けた梅酒をようやく飲めた。
漬けはじめた頃は「3か月なんて遠い未来のことだな。それまで生きてるかもわからないし、仕事も辞めているかもしれないし」などと思っていたけど、3か月は季節がひとつ終わる程度にあっという間で、なんとか生き延びたし、仕事はまだ辞めていない、それだけの月日だった。
とは言えずっと気にかけていたのは事実。
ときどき瓶をひっくり返して中身を混ぜあとは押し入れの中で安置していたが、様子が気になってたびたび取り出しては瓶を下から覗いてみたり、匂いを嗅いでみたり、このブログに様子を書いて愛着を膨らませて過ごしていた。
「わたしのことなんかより、梅酒のほうが気になるのね」
ときにはそう恋人に嫉妬させるほど、私は梅酒観察に夢中になっていた。
「3か月」は梅酒が最低限漬かり飲めるようになる期間だ。
もっと漬け込んだ方がいいし実際に梅たちはまだ漬かりきっていないみたいで、赤ちゃんの脳のようにつるつるした個体がほとんどである。
梅酒とは時間を愉しむものだと思う。それは飲み方にしてもそうだし、漬け込む時間の長さを、流れを、季節の移り変わりを、齢を取るということを愉しむものなのだ。梅の漬かり具合や匂いの変化に時間が可視化される。贅沢な楽しみだ。
これからはゆっくり飲みながら、見るだけではなく味の変化も加えて楽しもう。
こう書くと隠居老人みたいだ。
はじめはストレートでひと口飲んだ。
アルコールのにおいがやや強いながら梅の爽やかな甘い香りが鼻腔を抜けて、風が吹くみたいだ。口あたりはとろりと溶けて濃密に甘い。それでいて胃の中は燃えるように熱い。
美味い。
梅酒、できるものだ。
テキトーに買った梅、間に合わせの道具、インターネットの付け焼刃な知識で初めて漬けたから期待はあまりしていなかったが、いい意味で裏切られたし、こうなると梅酒ってすごく簡単だとわかる。手順を踏めば脳みそがつるつるの赤ちゃんだってできる。
しかもこれからまだまだ美味しくなっていくなんて。
良すぎか。
梅酒をソーダ水で割った。
残暑にぴったりな飲み心地で、梅の香りが炭酸にはじけて汗ばんだ一日の疲れに気持ち良く吹き抜ける。ついカパカパ飲んでしまいそうになるので気を付けよう。
これからの季節はロックやストレートで飲むも良いし、お湯割りなんて特に楽しみだ。
まだまだ楽しめる。
良すぎる。
梅酒を漬けて悪いことなんてひとつも無いんだな。
豊かだな。人生。
作ってよかった。