ちょっといい話があるのでひとつ。
皿洗ってるときって漫画とかだとよく鼻歌を歌ってるシーンが描かれるが、実際はそんな歌う感じじゃなくて、私の場合は結構黙々と、地蔵を磨くかのように真摯な態度になってしまい、逆にそれ以外の時はけっこう歌を歌ったり踊りを踊っているし、お鍋の中からボワッと出てきたりもするので自分でもわけがわからない天邪鬼だ。エジソンが偉い、などと部屋の隅に向かって話しかけたりもする。
ま、それはどうでもいいとして。
なんかどこだったか忘れたけど、気分が良くて鼻歌を歌っていた。
とにかく無意識に自然なメロディで、はっと気付いた時に、それがなんの歌だか思い出せなかった。まるで古い記憶の底に眠っているオルゴールの蓋がひっそり開いたみたいに漏れ出た懐かしい音楽の感じがした。
なんとなく歌詞も出てくる。
♪先生ほんとうなの?
♪……コンクールが終わっても消えないの?
なんなんだ。
メロディラインはけっこう完璧に近く思い出せるのに歌詞が出てこない。もちろんタイトルも出てこないし、これをいつ歌っていたのかもよくわからない。ただ音楽が深い海の底から流れてくる。
たぶん確実に合唱曲だ。
今の時代は便利なもので「コンクールが終わっても 合唱」で検索すれば一発で出てくる。
「未来を旅するハーモニー」という曲でしたね。
たぶん小学生のときに歌ったのだろう。ぜんぜん覚えていないのだけどそうに違いない。
昔の曲を思い出してエモくなった、ってそれだけの話題なんだけど、この曲の歌詞が良くて。
笑うたびに 歌うたびに思い出すよ
夕陽色の顔
響け届け未来の まだ見ぬ私たちへ
十数年経ってふと口ずさんだこの曲。
忘れてしまったものも多いけれど、たしかに未来の私に音楽が届いた。
自然で優しく人肌のメロディとノスタルジックな歌詞だから、記憶の底に居場所を見つけて、この未来で流れてくれたんだね。
音楽ってすごいな。
そう思ったんだっていう、小さな話。いいでしょ。