蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

呪いの家、ビニールの窓

今週のお題「防寒」

 

家は海の街にあるしがない一軒家で、誰も愛着がない。

私が幼い頃に、当時住んでいたアパートから一軒家に引っ越そうというので、中古販売の家を母と不動産屋と回っていろいろ見ていたのだが、ある日突然、今の家に決まっていたので驚いた。

一度も見学をしていない家だった。そこに父が勝手に決めてしまったのだ。

それで父と母は大喧嘩し(当然だ)、だけども経済力が0だった母はどうすることもできず、このようにして私たち一家は、いまの実家たる海の街の一軒家へ引っ越したのだ。

23年前のことだ。

 

23年前ですら築20年近く経っていたので、今はもうそれなりに古い家だ。

どこもかしこも酷い有様で、雨が降れば出窓に滝のような雨漏り、まともに開く窓は家じゅうの窓の半数以下しかない。壁には亀裂が入り、塀は潮風で腐り、庭は悲しくなるほど荒れ果てている。

疫病神たる父がなんとなくで決めた家らしい有様だ。おまけに父は死んでいるので責任も取れないし、死んだ人間から金はむしり取れない。死んでも金を払い続けるべきなのだ、あいつは。

遠目に見れば古い家、近くで見れば廃墟然としたこのボロ屋に、一見救いはないようだが、ほんとうにどうしようもなくて、今は母と妹と2匹の猫が暮らしている。

 

窓が半数以上、まともに開かないと先ほど書いた。

直せばいいのだが、これを直せないのは、なんか特殊な作りの窓らしくて対応してくれる業者がおらず、建設会社に直接言うしかないからだ。

さらに悪いことにこれが違法な会社であるらしくて(私の実家は違法な会社によって建てられたのだ)修理には法外な値段がかかり、誰も対応してくれないのだ。そんなことがあっていいわけがないのだが、そんなことになっている。

割れている窓もあるし、隙間が空いたまま動かなくなった窓もある。そういう類のものはガムテープや養生テープで固定して風が入らないようにしているのだが、風呂場の窓はどうしようもない。

湿気でテープは剥がれてしまうし、こちらの窓もあまり例を見ない作りをしていて、もうどうしようもないらしく、違法建設会社の法外な修理費用にどうすることもできず、今はガムテープを重ね貼りしたうえに梱包材のビニールを張って、なんとか過ごしている。

これが、まったく断熱もできないし、風は入るし、しょっちゅう剥がれるしで、まるで意味がない。古事記を英訳したものを現代語訳するくらい意味がない。

しかも、なぜかわからないのだが私が半年に一回くらい帰省するまで母も妹もそれを「直せない」とか言って張り直すことをせず、「寒くて凍えて可哀相な老婆と娘」を演出している。意味が分からないので、勝手に震えてろ、といつも言い放っている。

 

これが、まぁ、今日のテーマたる「防寒」なのだけど、全体としては呪いの家の紹介をしただけになってしまった。

帰省するとこの呪いの家のせいで気を病んでしばらく引きずるので、できれば遠くへ離れていたい。

母と妹と猫は人生を変えたいのなら引っ越すべきなのだ。もう半分くらい地に沈んでいるあの家と心中する必要はない。

 

ひとつだけ救いがあるとすれば、猫たちが可愛いことくらいか。