蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

ザブトンでぶん殴られた記念日

生日だったので、焼肉屋に行った。

焼肉が好きかというと、じつはそんなでもない。焼くのが面倒くさいし、なんだか年々、脂っこくて食べるのがキツくなっているのだ。

でもそれでも私が誕生日祝いに焼肉を所望したのは、近所にある焼肉屋が小さい割に有名店らしくて美味しいらしく、近所に住む以上は一度行ってみたいと思っていたことと、やっぱり焼肉って響きがいいしご馳走感があって嬉しいと思ったからだった。

焼肉は苦手だが、好きなのだ。

 

2年ぶりくらいに焼肉を食べた。いや、3年ぶりとかかもしれない。

年月を経て行った焼肉では、自分が変化したことを実感できて面白かった。

まず、サンチュを自分がこんなに好きになっているとは思わなかった。

どの肉を巻いても美味しくさっぱりして、野菜の栄養も摂れるだけでなく、葉にクセがなくて食べやすく、美味しい野菜ではないか。

3年前まではなんでサンチュに巻くのか理解できなかったのだが、今ならわかる。歳をとるとサンチュで巻かないと食べられないのだ。

焼肉におけるオブラートです。

キムチもいい。うまい。肉の脂が即座に分解されるかのよう。キムチに入ってる酸性の旨味が肉によく合う。

有名店とだけあって、肉も相当美味しかった。

やわらかい。なんていうか、肉そのものの美味しさみたいなものが存分に味わえるのだ。

カルビがジューシーで美味しかったのだが、カルビくらいの脂で結構ギリギリな感じがした。美味しかったけど、サンチュがないと食べれない。

つくづく歳をとったもんだ、と思いつつもまだ27歳なのかとも思い、脂がダメになる年齢早くね?と寄る歳の波の速度に驚く。みんなこんなもんなのだろうか?

なんか、この1年くらいは自分が28歳のつもりで生きてたから、誕生日を迎えて27歳になったのが、なんだかよくわからなかった。矛盾している、と思った。

実のところ年齢なんてどうだっていいし、誕生日自体も妻に言われるまで忘れていた。何度言われても意識から弾き出されるから、「おめでとう」と妻が言ってくれるたびに「なにが?」と一瞬疑問を浮かべて、ああそういえば誕生日か……と思い出すくらいの意識の低さだった。歳を重ねるごとに誕生日を忘れていく。面倒臭いので、これから私は数え年でやっていこうかな。あとちょっとで28歳だ。

 

肉をまだ食べられそうだったので、普段は食べない部位を試してみよう、ということで、トウガラシとザブトンという部位を注文した。

なんにも調べず、勘で頼んだ。

これが大いなる間違いだった。

思えば間違いだらけの人生だ。

トウガラシは赤身の部位らしく、やわらかくてあっさりしていて大変良かったのだが、ザブトン、こいつが脂身の物凄いやつで、上等なサーロインの様相を呈し、提供されたときに「しまった」とつい口を滑らせそうになった。

脂が網目状になって肉を覆い、見るからに……。

炭火の上に置いたときから脂が溶け出して炎を上げてえげつない。

トウガラシまで食べ終えた私と妻はそこそこにお腹いっぱいで、ここにきてのザブトンに、目を合わせて生唾を飲み込んだ。

やってしまった。

そもそも少食の私たちが調子に乗るなんて烏滸がましいにも程がある。トウガラシでやめておくべきだった。

焼けたザブトンを食べてみる。

美味しい。

めちゃくちゃ美味しい。

かなーり良い肉。高級だ。値段もまぁまぁする。

だが。

「美味しいけど、一枚でいいね」と妻が真理を突いた。

脂がとにかくすごくて、もう辟易というか、正直飲み込むのにも一苦労だった。気を抜くと戻しそうになるのでサンチュを口に押し込む。

こんな自分が悲しくてならない。

ザブトンはあと5枚ある。

山田くん、我々からザブトンを取り上げてくれ。

 

サンチュとキムチとレモンの力を借りて、なんとか最後のザブトンを飲み込んだときには、すでに胃もたれが始まっていた。

店を出て薬局へ走り、胃腸薬を調達する。これでどうにかなればいいけど、明日はきっと胃もたれで半日を潰すだろう。

今すぐ渋い紅茶を飲みたかった。脂を分解したい。

「誕生日祝いに、何やってんだ」

「今日はザブトン記念日だね」

「……ごちそうさま」