あ、やってない、とおもった。風呂の中で。
頭から湯をかぶりながら、流れるシャンプーの泡だまりを見つめながら、やらねば、とおもった。
筋トレをやらねばならない。
25歳児にもなろうという近頃、腹周りの肉が出てきた。
健康診断の結果が返ってきて、去年と比べて体重は1キロ増え、腹囲が2センチも増えてしまったことがわかった。
良くない傾向だ、と言いたいが、未熟児みたいな25歳なのでこれでもまだ平均に達していない。
「理想的な体型」はもはやフィクションの世界なんじゃないか。
以前にも書いたけど私は元来栄養失調気味で、まず食べる量が少なく、そして食事の回数も少ないので太れないのだ。
若いケヤキが枝を伸ばし葉を広げるほどの速度でしか成長できない。
健康診断のときの記事は下記参照。
8月の健康診断から数日は間食に鶏のササミを食べたり、チーズを齧ったりしていたけど、普段間食もしないので、そうやって無理やり間食することがつらく、経済にも悪いので、今はほとんど間食しなくなってしまった。ミントガムばかり噛んでいる。
加えて朝食を食べれなくなったので(飲み込めない)、最近はお茶とヨーグルトで済ませている。
一日二食生活だ。
「君は空腹になると筋肉が溶けるから空腹の時間を作るな」と医者に忠告されたのに、一日の半分くらいを空腹で過ごしている。
ぜんぜんダメではないか。
この調子で「太り方を教えてください」なんて言っちゃいけない。効果的に太れるようカロリーの高いものを摂取したい。
↓
25歳児にして体力の著しい衰えを感じている。
25でこれなら、たぶん40になる頃には骨がボロボロになって筋肉は溶け腐り、全身から古代魚のようなニオイがして、もちろん禿げあがり、歩くのもままならず、座ることも難しくなるのでは、という恐怖が芽生える。
そんなの生き地獄だ。
40でそうなるくらいなら39で死んだ方がいい。
という、後ろ向きな考え方になって管を巻いているより、有無を言わさず筋トレをした方が生産的だし、精神的にも無神経で明るい。現代人にはこういう考え方の方が受け入れてもらえそうではないか。
筋トレをしよう。
します。
と言って最後に筋トレをやったのが一週間前の一度きりであった。
全然ダメではないか。
その一回きりで満足し、今日まで忘れていたのである。体を鍛えるよりもまず脳みそを鍛えた方がよさそうだ。
ここで記事の冒頭に戻る。
筋トレをしなければならないことを思い出した私は、風呂上りに床に仰向けになり、足をベッドの下に入れ、恋人に「筋トレ宣言」をした。宣言をして誓いを立て、恋人の名のもとに志さないと腹筋30回は遂行できない薄志弱行。意志薄弱。
「〽お前を嫁に貰う前に言っておきたいことがある」
「なによ」
「〽かなり厳しい話もするがおれの本音を聞いておけ」
「さっさと腹筋したら?」
「〽腹筋100回 なんてできないから せめて30回 やってみる 結果だけほしい筋肉だけ欲しい できる範囲でかまわないから」
「うだうだ歌ってないでさ」
「筋トレなんかやって何が楽しいのだろう。結果が伴わない気がするんだ。ってまずは100日くらいやってから言えって?おっしゃる通りだよ。だけどね、ひとつ心に留めておいてほしいんだけど、おれはね、なんでも継続性が無く、努力もできない無価値の人間だから浪人したんだよ。とどのつまりそういう人間なんだ。根本から」
「じゃあ腹筋やめたら?」
「いやいやいや、何をおっしゃる。おそろしい。
"今"ですよ。
あ~やりたくねぇな。明日やればいいよな。今日はもうお風呂入っちゃったし。そう思った"今"、このときにやらないと、いいですか、"今"を越えないと、本当の意味で明日は永久に来ないのです」
「じゃあやりなよ」
「とは言え───」と講釈を続けようとしたところで恋人は立ち上がり、彼方へ去ってしまった。
結局、したよ。30回。
なんか負荷をかけてやったから、やたら腹筋が痛いよ。良い傾向だ。筋トレ後は筋肉が痛い方が効果がありそうだし「やりました」って物理的な達成感を得られるから、できるだけ痛い方がいい。
あとはたんぱく質を摂ることだ。いくら筋トレをしても筋肉に変わる栄養を摂っていなければ、筋トレの時間は「無駄な時間」を過ごしたという虚無が蓄積するだけである。それなら脂肪として蓄えた方がまだ役に立ちそうだ。
とにかく、やった。これで私に明日は来る。
筋トレをすると、その日一日の罪が雪(そそ)がれた気分になる。
そうだ、筋トレのことはこれから"懺悔"と呼ぼう。