iPhoneの充電器がだめになった。
「中身が見えちゃってる」
恋人に言われて充電ケーブルを見てみると、接続端子の付け根のゴムが破けて中の銅線(おそらく銅ではないのだがここでは便宜上銅線と呼ぶ)が丸見えになっていた。なんていうか、露呈、というかんじの丸見えさであった。露(あら)わ、と言ってよかった。
とまぁ、しかし、こんなのはよくある話だ。
2~3年に一回くらいのよくある話なのだ。
充電ケーブルは消耗品だと思っているので、新しいものを買うとして、とりあえずガムテープで患部を巻き、きつく締め付けたところ、正常に充電ができるようになった。
このような状態でしばらくお茶を濁していた。
しかし一昨日の晩から、充電ができなくなってしまった。
付け根の部分を指できつく抑えるとiPhoneに電池マークが灯るのだが、指を放すと消えてしまう。
最後の頼みでガムテープでぐるぐる巻きにしてかなりきつく銅線を締め上げたのだが、それがかえってとどめになったのだろうか、それ以降は指で絞めても充電はついにされなくなった。
それでも往生際の悪い私は、とりあえずケーブルを薄暗く温度の低い場所で半日ほど放置し、ときには裏返して風を当ててやるなどして、ケーブルがリラックスできる雰囲気作りに努めた。
なんかわからないけど、こういうのは半日ほっとくと直ることが稀にある。
リラックスが大事だ、しばらくの休養を与えよう。
しかし半日経っても、ついにケーブルが充電をすることはなかった。
新しいケーブルを買った。
「断線しにくい」と明記されているものは多いけれど、今回購入したものはまさに断線のしにくさをウリにしており、充電ケーブル界のなかでも断線のしにくさに自信のある、そういうものらしかった。
ゴムではなくナイロンぽくて、「ちぎれる」心配はなさそうだった。
また、2メートルもあって長い。長いものには巻かれろ精神で、ついお得と思い2メートルを選んだ。
梱包を空けて伸ばしてみるとたしかに2メートルは長く、こんなにあったら枕元のコンセントに差したら夜中首に巻きついて死ぬのでは、と怖くなったので、ある程度束ねてまとめた。
だが気になったのはその長さ以上に、ニオイだった。
なんだか新鮮な石油のニオイがするのだ。
ゴムボールのプールにダイブした勢いで鼻からスーパーボールが出てくるようなニオイがする。有害物質を使って作られた新築一戸建てのニオイとも言える。ちょっと神経の細い人やセンシティブな嗅覚を持つ人だったら気分が悪くなっていてもおかしくない。そんなニオイだった。
これが枕元にあると、寝返りをうった際、首に巻きつくだけでなくニオイ責めまで加わり、悪夢にうなされることは必至であることは間違いないだろう。
2メートルあってもニオイが増すだけだし、はっきり言って失敗した。
2メートルある臭いヒモである。
このニオイ、半日放置して風に当てたら消えるだろうか?
(ケーブルにまつわる悩みのほとんどが放置によって解決されるものと思い込んでいる可哀相な人)