結婚式が終わってしばらくしたら、映像会社からショートムービーが届いた。
結婚式の様子を1時間弱のムービーにまとめたのでDVD化して購入しませんか?そのご案内にデモムービーをお送りします、というわけだ。
カップルによっては式前から映像を残す前提の人たちもいるらしいのだが、私たちは「一旦保留」としていた。
だってこのムービー、20万円くらいするのだ。
はいはい20万円ね、と糞を捻り出すよりも簡単に支払えるわけがない。
結婚式費用が膨れ上がって金銭感覚が麻痺しているのだが、よくよく考えれば20万円は大金だ。お金持ちだ。ビジネスクラスだ、リムジンバスだ。
買うかもしれない、わからない、となった式前の私たちは、購入を一旦保留にした。
だって式の様子は、列席者の視点から各自スマホでムービーを撮ってるし、それらをほとんど共有してもらうので、プロの撮ったムービーはいらないだろう、と私たち夫婦は予想した。
そんなわけで送られてきたショートムービー。
だいたい予想通りの出来で、まぁプロが作ったからには画質も良く、構図もいいし、なんとなく自然な様子もしっかり収められていてなかなかよかった。
買ってもいいけど、買うほどのものかとも思う。
迷うな〜、と思っていたところで不意に、友達のアップの顔が映し出された。
「えー、本日は、ご結婚おめでとうございます・・・えー、お二人のですね、晴れ姿が・・・」などと自席でたどたどしく喋っているではないか。
他にもゲストの顔も映し出された。
「ドレスがすごく綺麗で、とても似合っていて・・・二人の幸せそうな様子見てたらわたしも幸せになってきました」
なんてことだ。
どうやらこのカメラマン、我々がお色直しで中座している間に、ゲストにインタビューをしていたらしい。ざっと見ただけでも15人以上は答えている。
卑怯だ。
卑怯すぎる。
こんなやり方があっていいのかと、拳が震えてきた。
もしもこの映像を買わなければ、すべてのインタビューはお蔵入りし、メッセージは永遠に届かないことになる。カメラを回した時間も、言葉を考えてインタビューに答えてくれたその心も、なにもかも闇に葬られ、どこにも居場所を失う。
こんなの見せられたらもう、買うしかないではないか。
そういえばプランナーさんも「きっと欲しくなりますよ」とにこやかにいってたな。
そういうことか・・・。
「映像、全部見たいね・・・」
妻の言葉に私は頷く他なかった。
これがお前らのやり方か。
そういう商売やってんのか。
今はもう、はやくフルムービーが届かないかと、心待ちにしている。