蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

それは美味しい漆黒

カ墨を使ったパスタを食べた。

出先のイタリアンで食事をするときはできるだけ普段は作れないパスタを食べることにしている。タリアテッレとかペンネとかニョッキとかラザニアは普段使わないから、それらのパスタを使ったものがあれば、率先して注文する。

そして、カラスミのソースとか、ウニとイクラのクリームソースとか、味において家ではできないものについても率先して注文する。

アーリオ・オーリオとかミートソースは家でもできるが、当然お店で食べた方が美味しいに決まっている。しかし、お店では避ける。なぜなら、食べているときに「やっぱ店のが美味しいな」程度の感想しか持たないからだ。それ以上の感想を引き出す平凡なパスタは、よっぽど特別でなければならないのだ。めんどくさっ。

そのような理由で、イカ墨のパスタがあれば率先して注文する。

 

イカ墨は不思議な食べ物だ。

黒すぎる。

あまりにも。

夜の道路にイカ墨のペンネを落としたら、きっともう見つけられないだろう(見つけても拾って食べないだろう)。

濃密な黒が、しかしながら美しい。ねっとりとしていて、手に触れたら指先から黒に染まってしまいそうだ。ぱらりと散ったバジルの緑が輝いて見える。

味も変わってる。イカの概念を濃縮したような風味がある。ちょっとしょっぱくて、たしかに海洋性のものだとわかる。

でも、牡蠣みたいに、口の中に小さな海が広がる感じはしなくて、なんというか、イカからの贈り物をいただいている、そんな感じがする。波間の飛沫に光る潮を、そっと教えてくれる。

案外がつんとしていなくて、なんだこんなものか、と思う人もいるかもしれない。

 

イカ墨を食べるときはことさら服にはねないように気をつける。ほかの料理でも同じくらいの気をつけるべきなのだけど、イカ墨に関しては「はねたら終わり」というバイアスがかかっていて、いつだって初めて食べるみたいにおそるおそる口に運ぶ。イカ墨のスパゲティはフォークに巻くときに細心の注意を要するだろう。

口の中は意外にも黒くならない。唇についたイカ墨も、拭けばすぐに落ちる。

この黒さにして、意外にも非粘着質なのだ。よく考えたら水に溶けやすいのは当たり前だ。そうじゃなかったら、太古から吐かれてきた大量のイカ墨で、今ごろ海は真っ黒だろうから。

 

あとこれは言うか迷ったけど一応、イカ墨の楽しみのひとつとして言及しておかねばならないだろう。私以外にこんなことを言ってくれる人なんていないから。

 

次の日のうんち、バリ黒くなる。

うんち史上、一番、黒くなる。

まじウケる。