蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

写真を撮ることの難しさ

  日、会社の運動会で、朝の閑散としたグラウンドを曇天とともに写真に収めた。見るからに寂しくて、こんなもの写真に撮らなければよかったと後悔した。

    その時である。

    牛脂が鉄板の隅で焦げ腐ったみたいな顔したおばさんが、デデデ、と私の元に駆け寄ってきて、「ちょっと!」と怒ったのだ。

  「写真撮んないでもらえます?!子どもが写ってたらSNSに絶対に載せないでください!うちも載せないんで!」

 

    最初、なにを言っているのかまったくわからず、誰に向けて言ってるのかもわからなかった。というのも、そのおばさんが、なにか、もしくは灰色の風船に焦げた牛脂顔が乗っているものに見えていたので、人間とは認識できなかったためである。あるいは、その姿に驚嘆していた。

 

    おばさんが去ってから、あ、今おれは人間に注意されたのか、怒られたのか、と認識し、金麦をすすった。この日私は朝から飲酒していたのだ。

 

    なるほど。

 

    たしかに昨今、写真に写った背景の人がSNSに載せられて勝手に拡散されてしまう不本意な肖像権侵害の問題は甚だしく、また、怪しい男が子どもの写真を撮ってコレクションする・インターネットに載せるなど昔からの問題になっている不審な男の事案もあり、写真は撮りにくい時代になりつつある。

    母親が子どもを守るために防衛に出ることは正しい、というか、自然なことだと思う。

 

    前者の肖像権問題の場合、もうどこ行っても写真を撮ることが難しいよなぁと寂しくなる。まぁ、やたらに人間に向けてカメラを向けなければいいのだが、周囲への配慮が不可欠だ。

    私がショックだったのは、後者の不審者問題の可能性である。私はもしかして、ロリコン不審者に見られていたのだろうか?

    たしかに、朝から金麦を飲んでまったく準備にも参加せず、ぼーっと曇天を眺めている男は不審者に見えたかもしれない(自分で今こう書いてしまって、不審者だと思った)。

    だけど、不審者に見られていたとしたら悔しい。怒りたい。勝手に決めつけるな。

    あの牛脂バルーンおばさんの子どもがどんなに可愛いものかしらんが、私はロリコンじゃない。高校生以下はガキにしか見えない。

    子どもがどれだけ可愛いものなのかちょいと見てみた。よっぽど狙われやすいのだろうか。

 

    なるほど。

 

   母親に似て不幸な顔立ちである。

   ロリコンでも狙わないわンなもん。

 

    母親だってそのことを重々承知しているだろうから、どうやら私が子どもをつけ狙って盗撮する不審者に見られたのではなく、単に不本意な肖像権侵害はやめろと、先ほどの前者の意図を持って怒られたのだろう。安心した。

    私は不審者ではなかった。

  

 

    でもそれにしても、写真を撮りづらい時代になってしまったし、それもしょうがないよなぁと思う。

    子どもが勝手に拡散されるのも嫌だし、私だって不本意に写ってしまって拡散されたくない。なにが起こるかわからない時代だ。それこそ不審者がその写真の断片から子どもの身元を特定しにくるかもしれない。 

    

    私も気をつけようと思う。

    だいたい、なんでもかんでもSNSに載せるんじゃない。

    こういうことだから、家族の思い出として写真を撮りたい人も撮れなくなってしまうのだ。カメラや写真が悪いんじゃない。人間が悪い。