蟻は今日も迷路を作って

真面目な話からそうでない話まで。本当の話から嘘の話まで。蟻迷路(ありめいろ)という人が書いてます。

お洒落は今日も街を往く

  しぶりにネクタイを締めた。

    私の会社は一年中ネクタイを締めなくてもよく、オフィスカジュアルならほとんどの場合許される。だからネクタイを締めている人は少ない。

   

    今日ネクタイを締めたのは、なにか特別なことがあったわけではなく、単なる気分だった。誕生日に恋人から贈られたネクタイとタイピンを着けてみたくなったのだ。

    スーツを着るのが好きだし、ネクタイも好きだ。ネクタイを締めない文化が根強い職場だけど、ネクタイが好きなので思い切ってみた。

    実に半年ぶりくらいだ。

 

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    お洒落さん。

    ネクタイを締めて最初に思ったのはそれだ。

    いいな。

    そうも思った。

    調子に乗って写真まで撮った。

    

    ちょっとでもオシャレをするだけでこんなにも心持ちは変わるのか。

    行きたくない仕事に対して少なくとも「行くくらいなら死のうかな」とまで思わなくなったし、なんなら行くのも やぶさかではない気持ちになった。

    引き締まると同時に、ウキウキしている自分がいた。

    いつもよりちょっとだけ強い僕は元気よく家を出て、朝日は美味しいなぁ!とやたらに深呼吸をして頭がクラクラした。それすらも楽しかった。

 

    女がどうしてネイルをしたり化粧したりするのかわかった。それらを楽しんでいる人は、それらが楽しいからである。アホみたいな文章だが、実際そうなのだ。二つの意味で。

    自分を飾れば、生まれ変われないまでも、新しい心持ちでその日を迎えることができる。

    ウキウキしてくるのだ。

    お洒落の楽しさの根本的なところはそこだなと再発見できた。

 

    職場に到着すると、多くの人に「ネクタイ珍しいね」と からかいも込めて言われた。「パーティでもあるのかい?」と。

 

「ネクタイを 締める手つきは 慣れなくも 昨日と今日とで違う朝日だ」

 

    私は歌で返した。周囲がざわついた。

    師走とだけあって職場も忙しく、ストレスで頭がおかしくなったのだろう、そう心配の声も聞こえた。

     だいたい、返答になっていない駄首である。

 

    恋人に貰ったネクタイをきつく締めすぎて首が苦しかったけど、なんだか嬉しくもあった。

    私は常々、恋人に首を絞められて殺されたいと願っているのだ。そうか、こんなにも柔らかい死なのか。私は幸せだった。

    まぁ冗談はさておき、恋人に貰ったネクタイを締めるというのはこんなにも気分がアガるものかと知った。

    おかげで、都合の悪い仕事やタイミングの悪い出来事や理不尽なことがあっても、なんとか切り抜けられた。

    恋人に贈られたネクタイとタイピンがなかったら、殉死していただろう。なにもかもに絶望して。

 

 

 

    皆さんもたまにはお洒落をしてみてはいかがだろうか。濁った空に風を吹かそう。