蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

ブラジル国籍の男性が強盗の罪で逮捕された件

  朝、報道番組で掲題のトピックを目にした。

 事件の詳細は下記のリンクを辿ってほしい。

news.livedoor.com

 

 ベランダから知らない男が突然入ってきたら泡を吐いて気絶するしかないほどの恐怖である。

 被害者の女性はとても怖い思いをしただろう。

 殺される可能性も充分にあったし、強姦の可能性もあった。ここには書けないけど、もっと恐ろしいことに遭う可能性だって考えられる。

 記事に書かれている被害は現金一万円を奪われただけだが、実際には暴力を振られたかもしれないわけだし、こうした被害に遭うことは心にも傷を残すので、被害者の今後が安らかであることを願うばかりだ。

 

 ↓

 

 ただ、私はこのニュースを見て、言い難い悲しみを覚えたことを記しておきたい。

 

 男性の名前は「クマモト・ダニエル」容疑者。

 名前からも容姿からもわかるとおり、日系である。

 ニュースで流された彼の姿は、みすぼらしくて、目が虚ろに泳ぎ、諦めたように絶望しているように見えた。その絶望とは、この世には希望がないという絶望であった。

 逃げようとする被害者を抑え込んで、「オカネダケ、オカネダケ」と言ったらしい。

 お金が欲しかっただけなのだ。

 たぶん、生活が立ち行かなくなったのだろう。

 

 被害者が実際にいて、容疑者が逮捕されている以上、私からあえていろいろと憶測を言うのは憚られるし、真実がわからないぶん、自分はずいぶんと身勝手な立場で責任感もないと思うものだけど、それでもこのニュースについて私が涙を堪えた話をさせていただきたい。ただ決して、罪人を擁護するつもりはない。その旨ご承知いただきたい。

 

 容疑者は、ほんとうにお金が欲しかっただけなのだろうと思う。

 強盗しなければ生きていけないほど追い込まれていたのだろう。

 なぜそう考えられるかと言うと、現金を奪っただけ、それも、こんな言い方をしては語弊があるかもしれないが、たったの一万円、奪っただけなのだ。

 数日生きていくだけのお金を奪って逃走したのだ。

 もっと金が欲しければ被害者を殺してもいただろうと思う。なぜ殺してさらに金を奪わなかったのか?

 理由は、殺したくなかったから、に尽きる。

 それだけの金を奪ったら逃走したのはそれだけの金でとりあえずよかったからだろうし、殺してまで金品をすべて奪うほど悪ではなく、彼は立ち行かなくなった生活が一時的に(麻酔的に)どうにかなればよかっただけの、行き止まりでもがくひとりの人間だったのだ。

 

 「オカネダケ、オカネダケ」

 この言葉が切実さを胸に訴える。

 

 容疑者にも、彼を産んだ母親がいて、幼少の時代があったのだ。あるいはネグレクトされていたかもしれないし、幸福ではなかったかもしれない。わからないけど、彼の人生がある。

 逮捕され手錠をはめられた容疑者の目が虚ろに泳いでいるのを見て、たまらなく遣る瀬無い気持ちになった。私にはどうにも彼が心底悪辣な人間であるとは思えないのだ。

 よっぽど容疑者が快楽殺人者的で、強盗のスリルを味わうだけのヤンキーのほうがいい。

 私はなにを憎めばいいのかわからない。

 

 人間はその行為と結果によって誰でも悪人になる。母親だって、友だちだって、恋人だって、自分だって。

 

 適切に裁かれて、罪を清めてほしい。

 そして被害者に安寧があるといい。

 心からそう思う。