新居に本を持って行きすぎた。
持って行きすぎた、ということはないのだが(実家に半分くらい置いてきたので)、いかんせん本棚が無いため収納できず、まだ段ボールに入って部屋の隅でものものしい雰囲気を醸している。
しだいに、恋人の視線が痛い。
「どうしてこんなに持ってきたの?」という無言の圧力を感じる。
私だって、どうしてこんなに持ってきたのかわからない。だけど、あったほうがいいと判断したのだ。無いなんて悲しい。一緒に連れてきたかった。
それだけ本を持っているにもかかわらず、なぜまだ本棚を用意していないのか?
実家の本棚を持ってくればよかったのではないか、というご意見を伺うこと千万で、私だって合理性を考えればそうしたかったのだが、そうもいかなかった理由がいくつかあって、まず実家の本棚があまりにも大きくて新居での生活に支障をきたすレベルであるということ、それから別に購入した家具にそぐわないスタイルであること、あまりにも大きくて重いのでかえって持て余すであろうこと、などが挙げられる。
引っ越して10日余りは他の家具が揃うのを待たねばならなかった。
他の家具が部屋に並んだ様子次第で、本棚を買うことにしていたのだ。
そして日曜日に、ほとんどすべての家具が揃い、本棚を置くスペースを確保できたので、ネットで本棚を選定し、注文した。
注文したかったのだが。
すごく気に入っていた本棚が、なんと9月の発送になるという。
待てるか。ばか。
おれたちをいつまで、この狭く、昏い、段ボールめに敷き詰めておく気だ。強制収容所か。
部屋の隅で場所を取りながらギシギシ敷き詰まって、恋人殿の冷たい視線を浴び続けなきゃいけないのか長月迄。あほくさ。そんなら自己焚書しますわ。
そんな本たちの悲痛な叫びが聞こえた。
9月まで待てない。さすがに。
結局妥協して、そこそこに気に入った、というか、及第点というか、まだ我慢できるレベルの本棚を買った。それも届くのは2週間後だという。お盆休み中、まだ本たちは段ボールの中で不当な扱いを受け続けることになる。
コロナの影響で、家具や家電は入荷が軒並み遅れているというのが、今回の引っ越しでよくわかった。
7月はじめにベッドを買おうとしたときですら、フレームは9月にならないと入荷しないと言われたのだ。
いいな、とおもったオシャレな家具ほど良い木材を使っていて入荷に時間がかかるらしい。よい家具は制作に時間のかかるものでもある。
本棚は本当に気に入ったものにしたかったのだが、本たちの悲痛の叫びを聞いていて、時間には代えられなかった。
決して、恋人に呆れられるのが怖かったわけではない。