誕生日祝いで恋人にCDオーディオプレイヤーを買ってもらった。
誕生日祝い、と言っても私の誕生日は一か月以上前のことだ。実は25歳になったのである。意外と若いのだ。
私は実家からCDを100枚くらい持ってきたにもかかわらず、CDプレイヤーは持ってこなかった。
愚の極みである。
しかし、実家のプレイヤーは、いかにも安っぽい仕組みのもので筐体の白いボディが情けなくくすんでいやらしく、SONYとロゴの入った文字の下にAPPLEのリンゴマークのシールを若気の至りで貼り付けてしまい、音質も「咳しても独り」って感じで全体的に気に入っていなかった。
CDを再生するためにとりあえず存在している。それ以上でもそれ以下でもなかった。
だから引っ越しの際に荷物を多くしてでも持って行きたかったかというと、首肯しかねたのである。
インテリアとしてもサマにならないこのプレイヤーを持って行くのは気が引けた。
結局私は、『ジョジョ』の単行本66冊を荷物にまとめた代わりにプレイヤーを置いて行った。『細雪』の間違えて買った上巻2冊を荷物にまとめた代わりにプレイヤーを実家に置いて行った。CD100枚を新居に移動させ、それを再生させるプレイヤーを実家に置いて行った。
「誕生日プレゼントなにがほしい?」と恋人に訊かれた私は困っていた。
欲しいものなど何もなかったからだ。
プレイヤーは自分のお金で買おうと思っていたし、それ以外で欲しいものとなると、本か「空間」か、最近切れ味がすこぶる悪くなったので、しっかりした包丁が欲しかった。
包丁はかなり欲しかったし、恋人もトマトが切れないことに困っていたので、「包丁が欲しい」と伝えたところ「別のものにして」と切り捨てられてしまった。包丁なだけに。
恋人は、私が私的なものを欲しがることを期待しているみたいだった。あるいは私に包丁を与えたらそれで自分が刺されるのではないかと懸念しているみたいだった。もう4年以上も付き合っているのにこの扱いである。
結局、プレイヤーにしてもらった。
私がインターネット・エクスプローラーで選び、代金を恋人が支払うという平和的な選択であった。
注文してからものの二日で届いた。
私はライトなリスナーなので音響とか機能とかよくわからず、とにかく見た目で選んだ。
「かわいいこと」それが唯一にして絶対の条件だ。そして申し分なくそれは備わっている。
木目調のボディには温かみと渋さがあって部屋の雰囲気と調和した。またシンプルなシルエットで存在感が強すぎず、さりげない。昭和チックな見た目がいじらしい。
SANSUIというシリーズであることとスタイリッシュであることから「すぅちゃん」と名付けた。
すぅちゃんのレビューには音飛びがする、とそれなりの数の声が寄せられていたが、我が家に来たものは特にそういった不具合もなく今のところ正常に動作している。
とにかく可愛いし、音も実家のものより格段に良くて再生モードもいくつか選べるし、Bluetoothももちろん使え、リモコン操作も可能ということでQOLがむらむら上がっていくのを感じる。音楽がより身近なものになった。
プレゼントしてくれた恋人には感謝しかない。
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CDなんて今や古いシステムのメディアだ。
私も最近はもっぱらアマプラでストリーミング再生していて、アルバム単位ではなく雑多に曲単位で聴くことが多かった。聴く、と言っても料理しながらとか、うんちしながらである。BGMでしかない。
久しぶりにCDでアルバムを通して聴いてみると、曲一つ一つはもとより、「アルバム」という作品なのだということをあらためて思った。
アルバムとしての完成度が高いと、一冊の優れた小説を読み終えたかのような充実感があるものだ。