蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

いくつかの謎を残したまま

れなんだったんだろう。

昔の謎をいくつかまだ引きずっている。

 

 

幼稚園児の頃だ。

私は仲の良い友達とよく遊んでいた。

母親の漕ぐ自転車の後部座席に座り、商店街へ向かっていたところ、その友達のお父さんと偶然遭遇した。

今でも覚えているのだが、彼は一介の主婦には慇懃(いんぎん)であるくらいの挨拶をした。慌てたように何度も頭を下げ、「お世話になっております」くらいのことは言っていたかもしれない、なにか異様な雰囲気だった。

「ねぇどうしてあんなにあいさつしてたの」と私は母に訊いた。

すると母は、「弱みを握ってるから」と答えた。

 

今になってあれはなんだったのか母親に訊いても忘れているだろうし、私だってその友達の名前や顔も忘れてしまったのだ。どう訊いたらいいのかわからない。

母と友達のお父さんの間にいったい何があったのか?

母は、ある家庭の父親の、いったいどんな弱みを握っていたのだろうか?

永久に謎だ。

 

   ↓

 

中学生の頃だ。

電車で通学していて、毎朝同じ電車に、同じ女の子と乗り合わせていた。

幼馴染のような関係なので、べつに恋愛とかそういったものはなく、なんていうか双子の姉弟みたいだった。本を貸し合い、お互いの家に遊びに行ったり、ときどきテニスをしたり、神社でいつまでも話したりしていた。

朝、いつものように彼女が私の隣の座席に座り、しばらくしてから「帰ったらケータイ見て」と言った。

学校が終わり帰宅後、ケータイを見ると彼女からメールが入っていた。

そこになんというメッセージが入っていたか忘れてしまった。というのも、重要なのは着信時間だったからだ。

そのメールが届いていたのは、朝電車に乗っていた最中の時間だったのだ。

校則で学校にケータイを持って来てはならなかったし、電車の中でお喋りをしていたのでこっそり鞄の中でメールを打ち、送信することなんて不可能だったはずだ。

翌朝、どういうことか訊いた。

「さて、どうやったでしょうか」と彼女は笑みを浮かべて教えてくれない。

 

・時間指定で送ることができた 

・家にいる親に送信してもらった

・やっぱりこっそりケータイを持って来ていた

 

どれも「違う」と彼女は笑う。

「さぁて、謎が解けるかな?」といたずらっぽく言うのでなんかムカついて(フィクションだったらなにか展開があったはずだろうけどマジで幼馴染なので普通にムカついただけだ)、それきり回答を放棄した。

「教えてよ」

「だめに決まってるでしょ」

そんな会話でこの話は終わってしまったのだが、あれから10年余、まだ謎は解けておらず、確認するのもやっぱりシャクだし今更そんなことで連絡とりたくないし、だいたい彼女がこのことを覚えているかもわからないし、かれこれ数年は会ってもいないので、気まずい。

考えれば考えるほどますますわからなくなる。

あのとき、もう少しごねて答えを聞き出せばよかったんだ。

 

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知らなくてもいいことは世の中たくさんある。

そういうことにして心にカタをつけている。