蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

銃は発射されねばならない

頃夢に銃がよく出てくる。

二夜連続で銃が出てくることもある。

場面や状況はさまざまでよく覚えていないのだが、それは必ず拳銃で、黒くて、私ではなく他人が撃ち、私はただその発射を見ているだけでなにもせず(微笑みを浮かべるくらいはするかもしれない)、発射された弾丸はどこへ行くのか私は知らず、銃声はいつも小さい。

 

銃の夢は「不満」「攻撃性」を表しているらしい。

たしかに私は不満を抱えている。春ということもあり情緒が不安定で、朝なんか最近たぶん鬱病みたいになっていて、恋人のために食パンを焼いてあげるのがやっと、それから出社の時間までは食事も摂らずベッドの中でぎゅうと目を瞑っている。体が動かない。なにも喉を通らない。

攻撃性が高いので、唇の皮を剥いてしまう。同じようにしてささくれを千切ってしまう。鼻毛を抜くことだってある。

 

夢の中で銃声はいつも小さい。

毎回発射されるたびに「いや銃声小さいな。本当だったら奥歯が痺れるくらい煩いはずだ」と感想を述べている。

ぱしゅう、と老人の咳みたいな音。深いプールの底から聞こえてくるようなわずかな音。

だから撃たれてもきっとダメージはないはずだ。弾道はひょろひょろ弧を描いてキャッチャーミットに届く前に地面にめり込んでしまうだろう。

「攻撃性」はあるけれど、それを他人に委ねていて、しかも小さく発散される。その弱さが唇の皮を剥いてしまう弱さに繋がっている気もする。

 

ショボい銃声だけど、夢の中の銃は必ず発射される。

弾がどこへ行くのか、どうなってしまうのか、あるいは誰かを傷つけるのかは私にもわからない。

おそらく、「発射される」そのこと自体が、夢の中の私にとって重要なのだ。

だけどそれならもっと派手な音を鳴らしてまっすぐに飛んでいってほしいものだ。

春の朝は情緒不安定だから、夢の中の銃声がショボいことにもいちいち落ち込まなければならない。