蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

明晰夢の前兆

いきん夢の中でそれを夢だとほんの少し認識できるようになってきた。

認識に少しも多いもあるのかという話だけど、それは確かに「少し」だ。

夢を完全に掌握できているわけではなくて、「あ、これは夢だ」と思えるほどでもなく、なんとなくうっすらと「これは夢なのかもしれない」と言葉にならないくらいに浅いところで考えられる程度だから、「ほんの少し」の認識なのだ。

 

昨日は夢の中で実家の猫を撫でていた。

なんだか奇妙に汚れていて、毛が湿っていたし、やたらと短毛だった。全身ぷにぷにしていたし、強く叩くと脂肪がボヨヨンとはねた。よく見ると手足がなくなっていて、気付いた時にはアザラシになっていた。

「おいおい、自由だなずいぶん」と夢の中で言ったとき、ふとこれは夢なのだと気付いた。

夢と気付くと目が覚める。

完全に覚醒するわけではなく、徐々に徐々に、グラデーションするように夢と現実の境界がくっきりしてきて、部屋の時計の音だとか隣の部屋の音とか外の子どもの声とか夢の中で聞くようになり、「これは現実だぞ」と明確に思うまでになる。そうなればほぼ覚醒してる。目を開けていないだけで。

 

夢日記をつけると明晰夢を見れるようになるという話は「鏡の前で10日間『お前は誰だ』と問い続けると自己を見失って精神分裂する」なんて都市伝説くらい怪しげな出自だが、私にも都市伝説にすがるほど明晰夢を見たいと強く願う時代はあった。

夢の中でエロいことがしてぇ。そう強く思わずにはいられない時期があった。

でも結局明晰夢を願って見れるようにはならなかったし、父親が死ぬまでは毎晩夢に父が出てくるほど悪夢に苛まれた(実際には夢に見るほどの現実に苛まれていたのだが)。

 

今になって明晰夢を見られる兆しが出てきたが、もう私はエロい夢をそこまで欲していないし(決して0%じゃない。32%くらいの気持ちだ)、父親が死んでから父が夢に出ることはぱったりなくなったので、今更明晰夢は必要ない。

むしろ夢を見ない深い眠りを欲している。近頃眠りが浅くてすぐに目が覚めてしまうので、それが明晰夢の兆しになっているのかもしれない。

 

もっとも『インセプション』みたく夢を「構築」して長い時間を過ごせるのであれば願ったりだ。

夢の中でなんでもできるなら、死んだ犬と散歩をしたい。