蟻は今日も迷路を作って

くだくだ考えては出口のない迷路に陥っている

油壺マリンパーク/由来/サンドイッチ

奈川県の南に油壺マリンパークという水族館があった。

その水族館が2021年9月30日に閉園した。

すごく思い入れがあったわけでもないし、最後に行ったのはおよそ20年前だからかなりうろ覚えだが、それでもいくらか思い出はある。

 

油壺マリンパークは幼稚園の遠足で訪れた。

「どうして "あぶらつぼ" なのかしってる?」バスの乗り合いで隣の席の子が私に訊いた。それはクイズのようで、彼はその由来を知っているみたいだった。

「しらない」私は少し考えてから、わからずにそう答えた。

「あぶらの つぼがあるからだよ」

だろうね。

くだらねぇ〜〜〜。

なんでこんなこと覚えてるんだろう。それって答えになってなくね?と当時言ったかもわからないが、どうしようもない衝撃で覚えているのかもしれない。なんだこれ。

 

遠足は園児だけでなく、親と家族も参加できるものだった。私は母とまだ小さかった妹と参加した。

母が前日にお弁当はなにがいい?と聞いてくれて私は、サンドイッチがいい、と答えた。

大人になってわかるが、サンドイッチは準備が結構面倒な食べ物だ。すべて同じ具なら面倒でもないけど、そういうわけにはいかないし、コスパも良いわけではない。

それでも母はサンドイッチを作ってくれた。

3人分、重箱に入れて。

 

油壺マリンパークの外の芝生にシートを敷き、重箱をパカリと開けたときの、あのサンドイッチたちがたっぷり詰まった光景を、よく覚えている。

その日は曇っていて少し冷たい風が吹いていた。

私と妹は夢中になってサンドイッチを頬張った。

我が家のサンドイッチは「海苔とチーズ」という不思議な具があって、後から聞いた話だと「パンが余ったらテキトーに作ったもの」だったらしいのだが、それが好きだった。

あれだけのサンドイッチを作るのは大変だったろう。

遠足のお弁当は料理の腕の見せ所、しかも他の家族も参加しているとなれば張り切る気持ちもわかる。

母の張り切りと、私の希望に応えてくれた優しさと、夢中で頬張る子2人、芝生に敷いたビニールシート、水族館。

我が事ながら、思い出に浸ってみるとその光景は平和で美しく、かけがえのない幸せに見える。

それなのにどうしてこんなに寂しいのだろう。

 

水族館自体の思い出というよりも、その周辺の記憶のリンクになっていると言った方がいいみたいだ。

施設はなくなっても、思い出は残る。

きっと死んでもずっと覚えている。